第4話 幸せの後 ページ5
出会ってから、何をするにも何時も2人一緒だった。
あの頃、ほぼ日常的に奮われた、院長等からの無慈悲な暴力の終わりは一向に見えなかったが、其れでも私はあの少年がいたから耐えられたのだと思う。
そうして、お互いが唯一無二の存在となって、本当に本当に、心から深く幸せだと思った。
其れは、私達が12歳という、思春期の訪れの時期でさえ、変わる事は無かった。
其れなのに。
「……っ、」
胸に何とも形容し難い気持ちが染み渡っていく。
私は震え出す自分の体を抱き締めた。
──もう、厭になっちゃうな。
私は浴室から出た。
寝る前。
何時ものおまじないをする。
普段なら心の中でそっと囁くのだが、今日は、口に出して言ってみた。
「──夢では貴方に会えます様に……──」
せめて、幻想の中では君に会いたいんだ。
私の呟いた言葉は、私の意識と共に宙に溶けていった。
*
「おや、Aちゃん。寝不足かい?」
朝、開口一番に店長に言われた。
「はい、一寸……」
「またかい……、我慢出来ない時は休憩取って良いからね」
「はい……」
そして店長が去ってから、私は盛大に溜め息を附き、私は片手で目元を押さえた。
最近、酷く目覚めが悪い。
どうやら私は悪夢によって魘されているみたいなのだが、起きると何時も、其の夢の内容を忘れてしまっているのだ。
私が孤児院を出てからというもの、度々此の類いの夢を見るのだ。
でも私の生い立ちの事を考えるに、屹度精神面からきているのだろうと思う。
しかし、今日は何時にも増して酷いな。
太陽がまだ顔を出していない微妙な時間帯に覚醒したものだから、睡眠不足で目を瞑ったら今にも寝落ちしてしまいそうだった。
「……、目ぇしょぼしょぼする……」
今朝、自分の顔を見た時、其れはもう酷かった。目の下にクマは出来てるし、顔色悪いし、肌荒れてるしで……。
だから店長も心配してきたのだな。
「……、っあー……眠い……」
欠伸が止まらない。視界が揺れる。
何度も頭が前にぐらりと傾いて夢の入り口に誘い込まれては、駄目だ駄目だと現実に引き戻され顔を上げる。
仕事中に其れが何度も起こり、とうとう店の前に運んでいた鉢植えを落として割って仕舞い、見かねた店長は、奥で少し休みなさい、と私を小部屋へ押し込んだ。
私は椅子にすとんと座り、倒れ込む様に机に項垂れて其の侭眠りに落ちた。
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叶葉和音 - 鏡さん» コメント返し、大変遅くなってしまい、すみません!応援ありがとうございます!更新は不定期ですが、頑張らせて頂きます! (2017年2月25日 12時) (レス) id: c4535f63fb (このIDを非表示/違反報告)
鏡 - 続きがとっても気になります!これからも頑張って下さい!応援してます!! (2016年12月8日 17時) (レス) id: 4c3e184e93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:叶葉和音 | 作成日時:2016年12月5日 1時