第2話 心中宣言 ページ3
「──協力、感謝する」
写真を手帳にまた挟んで元の場所に戻して、眼鏡の男性は軽くお辞儀をした。
「いいえ、」私は苦笑した。「全然参考にならなくてすみません」
「そんな事はない。勤務中、邪魔したな。……太宰、行くぞ」また軽く会釈をし、身を翻す。しかし、太宰、と呼ばれた黒髪の男性は、
「え?」
「あぁ、此の沢山の花々の中で最も美しく咲き誇る可憐な華よ。どうか、私と心中して頂けないだろうか……」
先程まで立っていた筈なのに、何時の間にか私の足元に膝まずき、どんな女性でも虜にしてしまうだろう笑顔で、私の手をそっととっていた。
何だろう此の状況。
「え、あの……」
少し参って仕舞っていたら、
「太宰ィ…!!」
と、早歩きで戻ってきた眼鏡の男性が、太宰さんの後頭部を先程の手帳でぶっ叩き、小さく呻いた太宰さんの首根っこをすかさず掴み、
「此の唐変木が失礼した……」
とまた軽く頭を下げ、私に背を向けた。
私はまだ状況を上手く呑み込めていない侭、苦笑で彼等を見送った。
太宰さんは引きづられ乍らも、私に向かって微笑んで優雅に手を降った。
私はお返しと、頭を下げる。
頭を上げた時、彼等は私の視界の端に消えていった。
すると途端に肩の荷を下ろしたみたいな脱力感に襲われた。同時に口から溜め息にも似た息がふっと漏れる。
「ああいうのって、本当にあるんだ……」
人生で初めて、聞き込み、をされた。サスペンスドラマの中だけでしか見た事無かったから、何だか変な気分だ。其れにしても警察って大変なのね。
「……、切り替え切り替え」
私は店の裏手の整理に向かった。
其の日も何時もと変わらず、そこそこの数のお客さんが来店下さり、何時の間にか夕方になった。私は店出て西の空を仰げば、もう日も暮れかけていた。
昼間の雑踏も喧騒も、遠ざかり始めている。
今日もまた、あっという間に過ぎていったな。
私はふと目を伏せた。
──頭に浮かび上がりちらつく、銀色の髪。
其れは音もなく消え、残ったのは、空虚感。
私は頭を横に振り、其の思考を振り払った。
先刻よりかは気持ちが楽になって、ふ、と軽く息を吐き、自己暗示の為にそっと胸を撫で下ろして、私は店へ戻った。
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叶葉和音 - 鏡さん» コメント返し、大変遅くなってしまい、すみません!応援ありがとうございます!更新は不定期ですが、頑張らせて頂きます! (2017年2月25日 12時) (レス) id: c4535f63fb (このIDを非表示/違反報告)
鏡 - 続きがとっても気になります!これからも頑張って下さい!応援してます!! (2016年12月8日 17時) (レス) id: 4c3e184e93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:叶葉和音 | 作成日時:2016年12月5日 1時