34・病室/わだかたまる ページ37
ぱら、と紙を捲る音に意識が浮上する。
うっすらと開けた視界に映ったのは、無機質な清潔さを感じさせる白色灯の光りと天井だった。そこそこに見慣れた景色だ。
そこはマフィアの医務室の寝台の上だった。
あれ、と思う間もなく声が聞こえた。聞き慣れた淡々とした声音が。
「──任務失敗後の目覚めは快適か」
その言葉に屈辱に塗れた自分の失敗を鮮明に思い出した。快適か?そんな訳があるか、あんたの所為で最悪の目覚めだ──
いつもならそう罵詈雑言を浴びせる気力も今は無い。それよりも恐怖に近い何かが頭を埋め尽くす。
だって、だって。思い出してしまうじゃないか。『太宰さんの代わり』か、なんて台詞を。
どうして今更そんな事云うの。どうしてそんな目で私を見下ろすの。どうして今回、私を。
「……何で私を連れ帰ったの」
組合の異国人に淫欲剤を飲まされ挙げ句に凌辱されかけた。そして突然の爆発に気を失い、昏倒。
そこまで無様な醜態を晒した後に、放っておいてくれれば良かったとばかりなこの台詞が、如何に情けないモノか何て判ってる。
彼処でくたばった方がマシだなんて、捻くれて不貞腐れた小学生の言い訳の方がまだ可愛げがある。
それでも。意地を張らなければどうにかなってしまいそうだった。溢れる自己嫌悪で息も儘ならない位には。
「質問の意味が判らぬ」
案の定、温度の無い無機質な答えが返される。その事に安堵する自分にまた嫌悪感。
──そうやって突き放して。もっと、私達の関係に意味も何も無くなる程。『誰かの代わり』なんて判りきった事、態々意識させないで。
銀が心配するから、とか。所有物だから、とか。そういう意味合いで云った事が判れば後はもう充分だった。
あとは吐露してしまえ。弱者の見栄と言い訳を。
「代わりに決まってるじゃない」
刺された肩を無理に回し、腕を顔に載せた。目を見られたく無かった。
「太宰さんが突然居なくなって。ばかみたく体温に飢えてあんたに抱かれてきたに、決まってるじゃない」
静かな病室には自分の声が響いて厭だった。理由も判らず声が震えて、涙は滲んで。
理由を判りたくなくて、それが一番に私の恐れる事を指摘している。
──それで自分を丸め込んで上手く立ち回った心算?笑っちゃう位、哀れで憐れで惨めね、と。
そんなの判ってる。
「もう、いいでしょ」
──良くないの。もうあんたから離れたら、凍えて死んじゃうわ。
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まかろん - いつになったら続きだすんですか? (2022年3月3日 18時) (レス) @page38 id: e90d3fb299 (このIDを非表示/違反報告)
村越 - 続き……続きが読みたいです!待ってます!! (2018年12月31日 1時) (レス) id: 221d19ed47 (このIDを非表示/違反報告)
なをりん - 茉莉(まつり)さん» ありがとうございます!私の書く文章から、そう云った感想を頂けるのは正に感無量です。伝えたいことをちゃんと拾って下さっているんだな、と思います。滞り気味ですが……どうか最後まで御贔屓ください! (2018年7月24日 23時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
茉莉(まつり) - 何か無償に泣ける…更新がんばってください、楽しみにしてます…! (2018年7月21日 10時) (レス) id: 5299f2ee2b (このIDを非表示/違反報告)
なをりん - デミオムさん» コメントありがとうございます!私は今年受験生なのですが、そんな温かいコメントにいつも遣る気を分けて頂いています!この作品もあと少しで完結です!最後まで御贔屓ください! (2018年5月21日 21時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なをりん | 作成日時:2017年7月12日 18時