弱 者 情 事。【芥川龍之介】

３･職務/憂鬱 ページ4

銃をホルスターに納めると、今しがた蜂の巣にした死体の傍に膝を付く。

使い捨てのビニール手袋を履めて背広の内ポケットを漁ると、指先に何か硬く薄いものが触れた。あった。



取り出したのは、小さなUSBメモリ。



それを電子端末に繋ぎ、保存されているデータを開──こうとした処でセキュリティシステムが立ちはだかった。予想していた私は取り敢えずセキュリティが掛かった状態のまま端末にデータを取り込んだ。



あとは専門の情報処理班に回してセキュリティを解除させればいい。



用済みになったUSBメモリを靴の踵で踏み潰した。ぐりぐりと圧力をかけてじっくり潰し、マイクロチップまで塵になったであろう処でようやく止める。

この残骸があいつだったら最高なのに。否、いつか必ずこのUSBメモリのようにぺちゃんこにしてやる。




あの淫欲魔野郎は今日は私は休みだと連絡を入れていららしい。

はっ！きっちり働いて今月の給料はしっかりと搾り取ってやるわよ。

そもそも何が『風邪を引いたらしい』よ。あんたのせいで腰が砕けそうになってんでしょうが！白々しい。




気は進まないが、任務達成の報告の為にあいつに電話を掛ける。短いコール音の後に気怠げな声がスピーカーから流れた。




『終わったか』

｢ふふん、当然でしょう。滞りなく」

『今日はまともに動けないだろうと踏んでいたが……お前の意地と見栄は大したものだな』

｢チッ、地獄に堕ちればいいのに」

『相変わらず生意気な口の聞き方だ。弱者は黙って指示に従え』

｢弱者じゃないわよ！」

『なんだ。昨日の夜はあれ程素直だったのに、どうやら夜限定のようだな』

｢ばっ！！な、あっ、えっ、はぁ！！？」

『日本語で話せ』




狡い狡い狡い狡い狡い。

そんな話題を持ち出されて赤くなるなとか混乱するなって云うほうが酷だ。電話でよかった。今の私の顔は絶対に見られたくない。

信じられない、なんでそんな平然と話せるの？




｢……このブラック邪淫成長期」

『悪いが全くもって意味が解らん』

｢ああ、もう！！兎に角終わったから！！」




やや強制的に会話を終了させて通話を切る。ダメダメダメ。あいつのペースに巻き込まれたら負けよ塚本A。



私の一人悶絶は、死体から流れ出た血液が私の足元に到着するまで続いた。最悪。靴に血が付着してしまった。もう嫌。ミルクティー飲みたい。

４・最悪/超最悪→←２･昨夜/愛でる……*

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