17・元部下/不器用者 ページ19
私の胸元に顔を埋めて、くぐもった声で彼女が云った。それが単に顔を埋めている為か、それとも涙による鼻声なのかは判らない。
詮索すると彼女は怒りそうなので、判らないと云う事にしておく。
「……そうだね。本当にそうだ」
どの口が云う、とは正に此の事だろう。けれども珍しく悄気ている元部下に何か言葉を掛けない程、私は鬼ではない、と思う。
毛先に癖があれど、艶があって指通りの良い黒髪をそっと撫でた。彼女は真っ直ぐな髪質を羨んでいたが、私は此の髪が好きだ。
幾ら撫で付けてもぴょこん、と復活する毛先が面白い。
「……結局。貴方達は皆、いっちゃいましたけど」
ふと髪を撫で付けていた手を止める。
──貴方達、か。
彼女の拳銃嚢(ホルスター)に納まっている、古い型の黒色拳銃。それが二挺。よく手入れされている処を見ると、余程大切に扱っているようだ。
嘗ては、別の人間の持ち物だった。そして彼は、もう何処にもいない。
「Aちゃん」
半ば囁くような私の声に、彼女が顔を上げる。その渇いた瞳に驚きを覚える。てっきり泣いていると思ったが、意外な事に彼女は泣いていなかった。
「芥川君の事、大切にしてあげ給えよ」
今度は彼女が意外そうかな顔をする番だった。意外、と云うよりかは訝しむような表情だったが、それでも考え込むように少しの間、沈黙する。
「……大切、には出来ないと思う」
たっぷり考え込んだ後、彼女はぽつりと呟いた。不思議と二人しかいない狭い部屋の中に響いて消える。
「でも、手離したくない」
ぽろりと彼女の口から零れたその言葉に、思わず口元が緩んだ。大切ではない癖に、手離したくない。自分勝手で不器用な、実に彼女らしい独占欲。愛情の欠片も無いけれど、それでも。
彼女は彼を手離す気は無いのだ。……多分。
此の場に彼がいない事が残念でならない。捕らえられた時の身体検査で、常に持ち歩いていた音声録音機は没収されてしまったし。
「……それ、是非本人に云ってあげると善い」
「死んでもイヤ」
唇を歪めてバッサリ切り捨てる彼女は、照れ隠しとかではなくて、本当に嫌そうだ。言葉の通りに喩え死の危機に晒されようと、きっと本人に云うつもりは更々無いのだろう。
彼女はそう云う人間だ。
少し調子に乗って彼女の髪遊びを再開すると、瞬時にピシャリと手を叩かれた。……地味に心が痛い。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
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まかろん - いつになったら続きだすんですか? (2022年3月3日 18時) (レス) @page38 id: e90d3fb299 (このIDを非表示/違反報告)
村越 - 続き……続きが読みたいです!待ってます!! (2018年12月31日 1時) (レス) id: 221d19ed47 (このIDを非表示/違反報告)
なをりん - 茉莉(まつり)さん» ありがとうございます!私の書く文章から、そう云った感想を頂けるのは正に感無量です。伝えたいことをちゃんと拾って下さっているんだな、と思います。滞り気味ですが……どうか最後まで御贔屓ください! (2018年7月24日 23時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
茉莉(まつり) - 何か無償に泣ける…更新がんばってください、楽しみにしてます…! (2018年7月21日 10時) (レス) id: 5299f2ee2b (このIDを非表示/違反報告)
なをりん - デミオムさん» コメントありがとうございます!私は今年受験生なのですが、そんな温かいコメントにいつも遣る気を分けて頂いています!この作品もあと少しで完結です!最後まで御贔屓ください! (2018年5月21日 21時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なをりん | 作成日時:2017年7月12日 18時