桜桃奇譚〜心中したらヨコハマに転生しました〜【文スト×太宰治】

零・歴史の変わるプロローグ ページ1

1948年 6月13日 深夜 太宰治、玉川上水にて情死


ーおかしい話だと思います。

昨日の夜、僕、太宰治は確かにサッちゃん(山崎富江)と玉川上水に飛び込んで、死を確信しました。
ですが今、見知らぬ河川敷に無様に打ち上げられているのです。
周りは大雨で暗く淀んでいてよく見えません。

なんとか体を動かそうと試みましたが、流されている途中に切り株か何かに酷くぶつけたようで
痛くて動かせません。
嗚呼、無力。涙が出てきました。

散々先輩方からはいびられ、友達には鼻で笑われ、文壇にはゴミ同然の扱いを受けたこの僕が
どうしようもないろくでなしのこの僕が、またしても一人生き残ってしまったのでしょうか？

僕を尊敬してくれた織田君も、凶暴だが綺麗な顔をしていた中原も、同い年に生まれた中島敦も
みんな、みんな、生きようともがいたのに死んでしまった。

そして、死にたい僕は生きている。

涙と痛みで薄れる意識の中、どこからか地面を踏む音が聞こえてきました。
あと、これは本当に気のせいかもしれませんが、意識が消える直前、こんな声が耳を掠めました。

「おや、驚いた！こんな雨の日に川に飛び込む物好きが私の他にいるなんて！」

壱・川底の太宰、太宰を知らず→

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