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「・・・A?」
「バウバウ」
「何て?」
相変わらず、Aの言っている事は分からないが、Aはどこかに歩いて行った。そして、数分後に戻って来た。戻って来たAは、口に何かをくわえていた
「バウ」
「これって、」
目の前に落とされたのは水の入ったペットボトルだった
「・・・嬉しいけど、開けれないよ」
片腕は埋まっていて、もう片方は瓦礫に潰されていて動く気がしない
「ワウッ」
Aは器用にもペットボトルを地面に立てて、体勢を低くする。低くした体を振り上げた。その直後、ペットボトルの上の部分がスッパリと切り離された
「ガウ」
「ははは、君は本当に、規格外の強さだな」
これだけしたのだから飲め、と言われた気がして、ペットボトルをくわえたAに、少しずつ水を与えてもらう
自分が思っていたよりも渇いていた喉が潤って行く
「ん、ありがとう」
「バゥ」
飲み終わると、Aは枕になってくれる。冷たさの残る建物の中でも、Aの体温は暖かくて、安心して眠りにつく事が出来る
それから、その繰り返しだった
僕が起きると水を運んでくれて、それを飲んでいた。飲み終われば、Aが枕になって、眠らせてくれる。水がなくなると、Aはどこかに行き、また水の入ったものをくれる
何時間、何日が経ったかも分からない
いくら水で命を繋いでいても、限界はあった
「A、きみ、だけでも、どうか・・・」
意識が眠る事ではなく、失う方に傾いていた。それが分かって、隣に寄り添ってくれている彼に言葉を投げた
すると、彼は伏せていた体を起こした
「バイバイ・・・、A・・・」
僕の想いを受け取ってくれたのか、どこかに歩き去る彼に別れを告げた。冷たい地面に顔を落として、眠りにつく
しかし、僕は再び目を覚ました
「目が覚めたか?」
隣からAの声ではない人の声が聞こえた
「まずは医者を呼んで来よう。そこにいてくれよ」
言われなくとも分かっているし、物凄く体が怠い。それでも、現状を把握しようと思い、ぼやけている目が何度も瞬きをして、見えるよにする。少々マシになったので辺りに視線を向ける
どうやら、死んでいる訳でもなさそうだ
独特の臭い、慣れ親しんだ臭いとも言えるのか、白いこの空間は、病院の一室だと分かる
「自分の事などは、分かりますか?記憶の欠損はありませんか?」
「はい」
「それは良かった。明日は精密検査をするので、今日はご友人と話しながらゆっくりしてくださいね」
医者は短い話をして、部屋を出た
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作者名:空白可能 | 作成日時:2022年10月11日 23時