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「ど、どうしたの?」
部屋に帰ると、Aが僕の周りを回りながら、鼻をフンフンと鳴らしながら臭いを嗅いでいた。臭いを嗅いでいたAは僕を見上げて、鼻を短く鳴らす
臭いを嗅いで何かが分かったのか、満足したのか、Aは離れて行く。あの子に対して、理解が及ばないところもまだまだあった
だが、それを気にするのも後少しの間だけ。賑やかになった生活が、以前までの何もない空虚な日常が返って来るだけだ
いや、僕の日常が戻って来る可能性は少ないだろう。恐らく、僕は自分の潜入している組織がなくなった後、僕の存在もこの世から消える事だろう。僕が消えたところで、この国は終わらない
ただ、腐った人間が、この国を守るはずの高潔な組織にいる事が気がかりだった。その組織から弾かれた僕の方が、腐った人間の部類に入るのだろうか
「ワフッ」
思考の海を漂い、その波に拐われそうになっていたら、低く落ち着いた声が耳に届く。その声に我に返った
「A・・・」
足元を見下ろすとAが、僕の隣に寄り添っていた
「はははっどうしたんだ。もう、ご飯は食べただろ?」
「ワウ」
「違うって?」
「ガゥッ」
怒ったように鳴いたAは、僕の周りを念入りに回って、体を擦り付けていた。その行動の意味は甘えたいなどの理由だが、Aにそのような気持ちはあるのか疑問に思う
僕に懐いているようにも見えるAだけれど、Aが尻尾を振って喜んでいる姿を見た事がない
ハロがいい加減な事をして、尻尾で叩かれている姿は何度も見た事がある。風呂好きで、入れなかった時に尻尾を残念そうに垂らしていたのも見た
「・・・君はどうして、僕の傍にいるんだい?」
会った時から不思議に思っていた。あまりにも不自然に彼は僕の後を追って来た。ハロのように僕が恩人と言える存在なら追って来る理由は分かる
しかし、彼は違う
彼は僕だと認識してついて来ていた。ひったくりに遭った方が偶然と言える
「バウバウ」
「やっぱり、犬語が分からないと無理か」
僕の質問に答えてくれようと、Aは低く落ち着く声で話してくれている。誰か翻訳が出来る人物か機械をくれないだろうか
「幸せに暮らすんだ、痛・・・っ」
幸せに暮らせと言おうとすると、Aから強烈なタックルをお見舞いされる。その衝撃が強すぎて、床に倒れ込んだ。倒れ込んだ僕の上にAが乗った。そして、大きく口を開けたAを見て、これは顔面を食われるのでは、と覚悟した
しかし、大きく開かれた口が咬んだのは首筋だった
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作者名:空白可能 | 作成日時:2022年10月11日 23時