第1話 小湊春市 ページ3
初日、入学式。
つまらない式典のあとは、クラス別に自己紹介。
それが終われば帰れる。
「え、えと…小湊春市です!野球部です!よろしくお願いします!」
自分の席の前の子が、顔を赤らめて言う。
野球部だったんだ。
席が近いのは運が良かった。
周りの女子からはこそこそと黄色い声援が飛ぶ。
「時屋蒼生、よろしく」
私はそれだけ言うと、席に戻った。
少し上機嫌だったから、柄にもなく「よろしく」なんて言った自分に笑った。
「よろしく、小湊君」
席に戻って耳打ちすると「うん!」と、また顔を赤らめた。
素直でよろしい。
でも、このクラスで良くも悪くも1番目立ったのは、降谷暁。
クラス表では"あかつき"って読んだけど、どうやら"さとる"と読むらしい。
彼も野球部らしいけど、ずっと眠ってて自己紹介をしなかった。
小湊君によれば、野球部はそういう態度が幾らか許されるらしい。
さすが強豪校、としか言いようがない。
「ねぇ、小湊君」
授業終わり、さっさと教室を出ようと立ち上がる彼を引き留めた。
「どうしたの、時屋さん」
これから部活もあるだろうに、愛想よく対応する小湊君は本当に良く出来た子だ。
少し申し訳ない気持ちもあったが、それを隠して私は聞いた。
「野球、って楽しい?」
「…た、楽しいけど…いきなりどうしたの?」
「あ…ちょっと言葉足らず過ぎたわ」
いきなり「野球が楽しいか」なんて聞かれても困るだろう。
それに、小湊君は神奈川から来たと言っていたし、楽しくなきゃ普通は東京まで来ない。
「言い方変えると」
「待って、やっぱ嘘」
「んん?」
私が言葉を考えていたとき、小湊君も同様に考えていたらしく、言葉を遮られた。
「楽しいかは、正直考えたことなかった。僕は兄貴に憧れて野球始めたし、兄貴と野球がしたくて青道に来た。んー、なんていうか」
彼は、考える素振りを見せてから言った。
「"好き"かな、野球は」
「ほぅ…?」
笑顔で言った小湊君に、私はあまり納得できなかった。
いや、性格が歪んでるとかそういうことじゃなくて。
好き。
好き、か。
「んー、よく分かんないな」
「野球やってない人は、ね」
仕方ないよ、と笑った小湊君を私はじっと見つめた。
それに気付いたのか、途端に慌てる。
「なんというか、格好いいね。小湊君。変な質問しちゃってごめん、ありがと」
私はそれだけ言って教室を出た。
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琥珀ねっと。 - あーちゃんさん» ありがとうございます!更新が遅いですが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです。応援ありがとうございます。 (2019年4月13日 21時) (レス) id: a1b104d49d (このIDを非表示/違反報告)
あーちゃん - すごく面白いです!展開が楽しみ!!これからも頑張ってください!(*^^*) (2019年4月13日 13時) (レス) id: 8c4679311b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琥珀ねっと。 | 作成日時:2019年4月5日 5時