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「Aか…?」
深夜も深まる頃、別棟の医学室からAは治の元へやってきた。半月ぶりに見るブルーの瞳には透明な涙が溢れんばかりに滲み、それはもう陽の光を反射して輝く海そのもののようだった。
久しぶりに美しいモンを見たと、治は涙に暮れるAを前にそんな事を言った。そしてそのまま流れるように彼女を自室に招き入れると、年季の入った2人掛けソファに座らせた。
「喧嘩か」
「…………あづ、あづむがっ悪いんやぁ!」
何があったのか大体察しがつく治に対し、Aは鼻声でしきりにそう訴え、終いには不貞寝を決め込むつもりか近くにあったひざ掛けに包まってしまった。治もそれ以上は何も言わずに読みかけの本に手を伸ばした。
しばらくの間そこには本の頁をめくる音と鼻をすする音だけが響いたが、やがてAのか細い声が沈黙を切った。
…
「侑に、嫌いって言うてしもた」
「ふはっ!!ほんまか、落ち込んどるやろなあ」
「それはオタガイサマやもん…」
「随分と口が達者になったなあ、A」
「…なあ、治」
「ん」
「私、後どれくらいの時間人魚でおらんといかんの?」
「……」
「早よ、人間になりたい…」
目を伏せ、現実から目を背けるように苦しそうな顔をするAはやはり、この世のものとは思えない神秘的な何かを孕んでいて、治はその様子を静かに凝視し見惚れた。
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兎海(プロフ) - しらたまさん» わあ、嬉しいです…!ありがとうございます! (2020年10月16日 0時) (レス) id: 7a66186871 (このIDを非表示/違反報告)
しらたま - え、すごい好きですこの作品!!神ですか?神なんすか!? (2020年10月15日 21時) (レス) id: 11f81e1c6c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:兎海 | 作成日時:2020年9月23日 20時