信じられない非日常。【騎士A】

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歌枠を取っている人の名前は

【しゆん】

と言うらしい。

動画を開くなり、僕はリビングに移動し冷蔵庫を漁った。

しゆんさんの歌を聞きながら昼食を食べる。

昼食と言ってもエネルギーinゼリーみたいな物だけど。

ゼリーを片手にコメントを打つ。

スパチャとか投げてみようかなって。

『こんにちは、初見です!しゆんさん頑張ってください!(๑•̀ㅂ•́)و✧
　5000円』

si「お〜スパチャありがと。A。今すぐ推しにしろよ?初見大歓迎だからね、最後まで見てって。」

...!認知された。

こう言われたからには最後まで見なければ。

ソファーに行儀良く座って手元にあったパソコンでしゆんさんについて調べる。

「...へぇ。」

【KnightA-騎士A-】

という歌い手グループに所属。

誕生日は9月28日。

血液型はA型。

年齢は27歳。

元モデル、元すとぷり。

過去に炎上騒動あり。

...過去の炎上とかどうでもいい。

少し苛立った。

気を紛らわすためにスマホに視線を向けた。

他の動画、は全部歌ってみた。

本当に歌が好きなんだな。

騎士Aのチャンネル...自己紹介ある。

si「次ぃ!君の神様になりたい!!」

僕の知ってる曲。

僕を救ってくれた曲だ。

本家しか聞いたこと無いけどしゆんさんが歌うとどんな雰囲気になるんだろう。

si「僕の命の歌で君が命を大事にすればいいのに♪」

機械的な声ではなく、ちゃんと感情のこもっている声。

さっきまでの明るい曲調とは違い、儚い雰囲気。

パソコンを動かす手を止めた。

目を閉じた。

その方が曲に集中できると思った。

...来る。

si「こんな歌で君のジュグジュグ 腐った傷跡が埋まるもんか!!」

Aメロの寂しそうな声色とは違い、サビで力強い声色に変わった。

鳥肌が立った。

冷めきった心の奥からカッと熱いものが吹き出してきた。

しゆんさんに自分の全部を奪われた気がした。

そうか。
これがしゆんさんの推しになるって事なんだ。

体中がしゆんさんの歌声を求めていた。

歌枠が終わる前にもう1度、コメントをした。

『最高でした!お疲れさまでした!』

しゆんさんは僕のコメントに気づくことは無く、枠を閉じて僕はようやく我に返った。

「...ふっ、」

今の笑みは幸福感から来たものなのか、皮肉に溢れたものなのか自分でも分からなかった。

しゆんさんを見つけて嬉しい。

でも最後のコメントに気づいてもらえなくて残念。

こんな事で腹を立ててしまう自分に失望した。

...今日はもう寝よう。

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