【文スト】肆 全身黒の、美しいひと。【男主】

玖拾壱. 其の横顔 ページ12

.

【マーク 視点】









マーク「お邪魔するよ」






Aさんの部屋。

ドアを開けると、彼は着替えているところだった。






「…何？」


マーク「食事を運べと命令でね」

「そう」






適当に返して、僕に背を向ける彼。


その白い華奢な背中には、いくつか刺青が入っている。





腰の左の方に、小さな鳥のシルエットが3つ。

右の肩甲骨辺りには、洒落たスペードのモチーフが1個。





だがそれよりも気になるのは、身体中に浮かぶ紅い痕の方だ。







「そんなに見るなよ」

マーク「いやあ、随分と愛されてるんだなあと思ってさ」


「…どうだかね」






彼は真っ白なシャツを羽織り、僕が持ってきた料理の皿をちらりと見る。






…持ってきたのはいいけど、ほとんど食べてくれないんだよね。


本当にもったいない。






マーク「…ひとつ聞いても？」

「どうぞ」

マーク「どうして5年前、急に消えた？」






彼は、僕を見てふっと笑う。






「さあ、分からない」

マーク「分からない？」


「…僕は幼い頃からずっと、何かを探している」






コーヒーのカップを手に取って、1口だけ飲む彼。


この人の仕草がいちいち上品なのはきっと、団長が昔にそう教育したからだろう。







マーク「…それは、何？」


「それも分からない。でも、…ここにはそれが無かったんだと思うよ」








そう言って彼は、窓の外の景色を眺める。

その横顔は、僕から見ても美しく、…どこか寂しげだった。




.

玖拾弐. 謎の男→←玖拾. 手紙の中身

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す