【文スト】肆 全身黒の、美しいひと。【男主】

佰玖. 見せぬ焦燥 ページ30

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【太宰 視点】









白鯨が海に沈んでゆく。


社長と共に、パラシュートが流れ着いたと思われる場所に向かう。





ひとつ気がかりなのは、パラシュートが3つしか見えなかったことだ。


…通信を聞いていた限りでは、脱出する段階でAはその場にいないようだった。







福「…太宰、あの中にAはいると思うか」

太「社長も気になりますか」

福「パラシュートで降りてきた三人の中に、Aらしき影はなかったのでな」


太「…別ルートで脱出はしていると思います。白鯨の中に残っているとは考え難い」






…そうであってほしい、という願望だ。


だがこんなにも気に病む理由は、パラシュート以前に落下してきた影を確認出来なかったからなのだ。






福「…彼奴の思考は常に予測不可能だな」

太「私と思考が似ている部分は多少ありますが、今回に関しては残念ながら一切見えてきませんね」


福「そうか…」






…彼と私は、本質的に似ている。




先を見通した上で、何が最善かを考える。

悪戯を好み、何かを求め、過去に囚われ、死に憧れている。




だが彼と私が決定的に違う点は一つ。






太「…先ずは彼らの元へ向かいましょうか」

福「ああ」






…彼は、私とは違う。




彼の場合、死への憧れは全て無意識下(・・・・・・)なのだ。

だからこそ、厄介な話だ。






だが彼は、まだ死ぬべきではない。




其の美しく気高い命を、消してはならない。


彼は探偵社にとって、この街にとって、世界にとって、…私にとって、必要な存在なのだから。




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