【文スト】参 全身黒の、美しいひと。【男主】

漆拾参. 怯え ページ24

.


【フィッツジェラルド 視点】









最後に見た時より、短くなった黒髪。


穏やかな表情と、丁寧な口調と。




そして、…光を得た瞳。






フィ「A、大きくなったな」


「…あの頃の貴方の年齢にもなってませんよ、」






相変わらず、白い肌は綺麗なままだ。



首元の太いチョーカーも、よく似合っている。





…ずっと切望し続けた彼が、今、目の前にいるのだ。

それだけで、心が躍っている。







「…どうして、」

フィ「ん？」


「どうして、そんな目をするんですか、」






不安げな目が私を見つめる。


…昔から、ふいにこんな表情をしていた気がする。






フィ「…A、私は今でも君を」

「やめてください、…僕は、僕は、っ」






できるだけ優しく、彼を抱き締める。




華奢な体はかすかに震えていて、彼は抵抗もしない。

…昔より、さらに痩せた気がする。




フィ「A」


「…どうか、続きを言わないでください。心が、乱れるから……」






昔から、不思議だった。




ふとした瞬間に、Aは何かに怯える。

目に見えない何かを、恐れている。




そして今も、私の腕の中でAは震えている。




その姿が、どうしようもなく、狂おしいほどに愛おしい。






フィ「A、久しぶりに酒でも飲まないか」

「…謹んで、お受け致します」






震えた声が、耳元で響く。


片腕を彼の腰に添えたまま、左手で彼の頬に触れてみれば、虚ろな深青色の瞳が私を見上げる。




たまらなくて、彼の唇にそっとキスを落とした。



.

漆拾肆. 温もり→←漆拾弐. 揺れる心

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す