【文スト】参 全身黒の、美しいひと。【男主】

漆拾弐. 揺れる心 ページ23

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フィ「A、久しぶりだな」


「そうですね…5年振りでしょうか」

フィ「…随分と変わったな」

「僕からしてみれば、貴方も随分と老け込んだ気が致しますよ」





モビーディックの中。


豪華な装飾の施された部屋で、僕は彼と向き合っている。






フィ「…元気にしていたか」

「ええ、何とか。貴方も元気そうですね」

フィ「ああ。A、顔を見せてくれないか」


「…ご自由にどうぞ？」







彼は僕の方に近づき、そっと眼帯を外す。


懐かしげに僕を見つめる水色の瞳。





何故か、僕は彼から目を逸らせない。






「…既に成人はしていましたから、顔はあまり変わっていないと思いますが」

フィ「いや、少し大人びた気がするよ」


「いつまでも子どもだと思っていませんか」

フィ「当たり前だ。私の中では、ずっと愛らしい子どものままさ」







やけに優しく、彼の手が僕の頭を撫でる。

…なんだ、この感じは。




こんなの、本当に小さな子どもにするような扱い方だ。







「…その愛らしい子どもを、貴方は抱いたんですか」

フィ「それは言葉の綾だな」


「ところでひとつ聞きたいのですが、よろしいですか」






僕の髪に触れる彼の手をそっと掴み、僕は彼を見つめる。






フィ「…A、それは後にしよう」






頬に、優しく手が触れる。




…何故だろうか。

どうしてこんなにも、心が締め付けられるのだろうか。




そしてこの男は、どうしてこんなにも優しい目で僕を見るのだろうか。



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