◇share.02◇ ページ3
天気予報が見事に外れ、
ザーザーと雨が振り続いている夜のオフィス街は
水溜りに映るビルや街灯の光をバシャバシャ踏みつけながら帰宅を急ぐ人や
車のボディやワイパーが雨水を弾く無機質な音で溢れかえっている。
そんな中、私は傘もささずにふらふらと歩いていた。
今日はいつにも増して散々な一日だった。
朝からしてもいない在庫管理のミスをなすりつけられるし、
後輩のバイトさんが受けたクレームの対応を店長に押し付けられ
お客様には散々怒鳴られた挙句コーヒーを頭からかけられた。
おかげで休憩時間は短縮されてしまい
髪は濯げても乾かせなかったし、お昼は食べ損ねてしまった。
更には閉店後、本来社員さんがする業務を手伝うよう言われて退勤が遅くなり、
ようやく帰れると思ったら予報外れの大雨。
おまけに店に置いていた予備の傘は誰かに盗られて無くなっていた。
駅では酔っ払った柄の悪い人たちに絡まれるし、もう最悪だ。
なんで私が、私ばかりが、こんな目に遭わなくちゃならないの。
どうして私は、こんな世界で生きてるの。
もう嫌だ、何もかも全部。
ドンッ ベシャッ
通行人「いってぇな、どこ見てんだよ。」
ついに、前方から歩いてきた人にぶつかり
私は衝撃に抗うことなく倒れた。
謝らなくては、そう思うより早くぶつかった人は舌打ちをして
倒れままの私の手を踏みつけながら去っていった。
道を行き交う人々は倒れたままの私を邪魔そうに見ながら歩いていく。
なんとか這うようにして道の端に移動すると
視線の先には川があった。
いつもは穏やかに流れている川は
雨のせいで増水し、流れもずっと速くなっていた。
『...もぅ、いっそ...このまま...』
ぼんやりとした意識の中で、ふとそんな思いに駆られ
私はよろよろと立ち上がった。
橋の手摺りに手をかけ、身を乗り出す。
ゆっくりと目を閉じて、そのまま体を前に___
??「ちょっ、君!!なにやってるの!!」
そんな声が聞こえ、同時に肩を強く引かれ抱き止められた。
雨に打たれてつめたくなった背中に感じるのは、久しく忘れていた人の温もり。
それが分かった瞬間、猛烈な倦怠感と睡魔に襲われて私は意識を手放した。
最後に見たのは、
蝋燭の灯を閉じ込めたような綺麗な瞳だった。
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作者名:浅葱 | 作成日時:2019年11月3日 23時