地下世界の彷徨者

諦めは心の養生 ページ40

─Sansが、泣いていた。

本人は私に気付かれないように
隠していたつもりなのだろうけれど
目元を覆うように被せた腕の隙間からは
歯を食い縛り、頬を伝って落ちる涙を
強引に拭っているのが垣間見えた。

…Floweyが繰り返す
【Reset】にSansが、気付いた。

数十回は繰り返していると彼は言った。

…私が此方に来てから
【Reset】の予兆は無い。
そもそも【Reset】を
感じ取れない身体なら最悪だが…
もし、感じ取れる身体なら
少なくとも此方に来てからは
まだ、【Reset】されてない筈。

ことことと音立てる鍋。
良い具合に煮え上がるのを待ちながら
これからどうしよう、なんて考える。

もういっその事、
CharaとSansを会わせてみようか。

そこまで考えて、首を振る。

…お互いに会わせた方が、
確かに今後の事は話しやすい。
でも、Charaに【Reset】の
耐久性があるとは考えにくい。
同じ性質のSoulを持つから
一見平気そうだけど、
身体は作られた物だし…どうなんだか。

「…あっ。」

考えるのに熱中し過ぎたせいか、
鍋が沸騰し、低い音を立てていた。

集中し過ぎるのも良くないな…

加熱し過ぎた鍋を前に、ため息をつく。

失敗したかな…と、恐る恐る蓋を取り
怯えながら見た鍋の中には
透き通った茜色のリゾット。

…あぁ、良かった。
失敗はしてないみたいだ。

今度は安堵のため息を溢し、
底深い碗にリゾットを注いだ。

取り敢えず…
私は私に出来うる限りの事をしなければ。

秘密にしておきたかったけど
本人に伝える以外、支える方法は無い。

…腹を、括ろう。

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