ただずっといちゃいちゃしてるだけ【黒子のバスケ】

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コイツの寝顔なんてみたのは初めてだった。

いつもはでかい目を開けて、誰もが憧れたり、時にはおびえたりする存在である俺を、真っすぐに見据えていた。絶対に気を抜かずに、負けるものかと胸を張って。

そんな気丈な姿の彼女しか見たことなかったからだろうか、やはりこうして眠る彼女の姿は新鮮で。目を閉じて眠ることも、辛そうにぐったりと身を預けていることも今までなかったから。


こう見るとコイツも人間だ。


今までどこか違う星で生まれた、正義のヒーローの魂を持つ俺とは真逆の女だと思っていたのに。


こうして顔を赤くして、首筋を汗で湿らせ、熱い息を何度も吐き出しては小さく唸る彼女は、
なぜか俺よりももろい存在に見えた。

一瞬、このまま息を引き取ってしまうのではと背筋に寒気が走る。そんな想像、ばかばかしいと、ただの風邪だとわかっているのに。




「……お前が脆いなんて、あるわけねぇよな」




熱を確かめるように、首筋や頬に手を伸ばせば、熱い体温。

あぁ、大丈夫だ、生きている。当たり前のことなのになぜかひどく安心して息をついた。

俺の病人みたいに白い手は、彼女のほんのりピンクに染まった頬を撫で、額に静かに触れていく。もう熱は確かめて安心したというのに、なぜか手が彼女の体から離れなかった。んだこれ、磁石かよ。

手はどうしても彼女の熱から離れたくないという。風邪をうつしてほしいのだろうか。唇や鼻、瞼までも静かにゆっくり触れていく。何をしたいのか俺自身もわからなかった。ただ、勝手に手が触っていた。



「なに……してんだ、俺」




コイツを無理やり寝かせるためとはいえ、体にまたがって、好きなように顔を触りまくって。

何をしたいのか俺すらわからない。手が勝手に動いている。俺の思いを、欲を従順に受け入れた手が、勝手に動いている。


するりと彼女の肌を撫で、静かに手が顎をかける。

体はゆっくりと前へ身を乗り出していた。



＿＿＿＿あぁ、ちくしょう。



そうしてやっと思ったことは、そんな悔しさのあふれる感情だった。
畜生、ちくしょう。


ずっと、この甘い感情に気づかないようにしていたのに。気づかないふりをしていたのに。

気づかされてしまった。俺の体も意思も、ドクドクと早い脈を打つ心臓も、俺に告げている。コイツに向ける本当の感情を。


下唇を、軽く歯で噛んで、俺は静かに前へ身を倒した。



「お前なんか大っ嫌いだ、バァカ」



触れた熱は、火傷するほどに、熱い。

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