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彼女は刺した左肩に手を添え、苦く笑った。
女性の医療スタッフに着替えさせられた新しい赤いワンピースを見て、またふと笑う。
口元では笑っていたものの、どこか嫌そうな気配だった。倒れて運ばれ、治療を受けた。そのこと全てにひどく負けたような感覚がしたのかもしれない。
「……君が止血をして運んでくれたのよね。
…………ありがとう。」
あまり感謝しているような顔ではなかったが、彼女は少しうつむき加減でぽつりとお礼の言葉を零した。
正直、彼女に恨まれることはあっても感謝されることなどはないと踏んでいたので、俺は思わず目を見張る。殴らるとまでは思ってはいなかったが、まさか感謝されるとは。心底いやそうな顔をしているのは置いておくとして。
「……一応感謝の言葉は言うんだな」
「迷惑かけたことくらいはわかっているわ」
そういうと、彼女はそっと俺から顔をそむけた。もう話すことはないという合図だろう。
だが、俺はそれだけで引き下がるつもりはない。彼女の言葉の真意。
それをどうしても聞きたいのだから。
俺は立ち上がることもせず、彼女をじっと見つめる。その視線に気づいた彼女は少しだけ肩を上げたあとに遠慮がちに視線をこちらによこした。
「…………なに?」
「君は気を失う前に、俺に『可哀想だ』と言っていたが、それはどういうことか知りたくてね。
ついでに、君が俺との婚約を肩を刺してまで嫌がる理由も。」
「……聞いたところで君は得しないでしょ」
「それを決めるのは俺だと思うが」
「…………。」
俺の言葉が正論だと思ったのだろうか。彼女はこちらをさぐるように見つめては言葉を紡ぐことをやめた。
静かにこちらを見つめるその瞳に、俺も視線で返す。こちらも本気で聴いているのだ。その真意を。
しばらく無言の時間が続いた後、彼女は俺の心情でも察したのか、小さくため息をつくように口を開いた。
「……………………夢が、あるのよ。」
それは、何度か言うことを躊躇し、葛藤した末に出てきたような蚊の鳴くような声だった。
ずっとあっていた視線は恥ずかしそうにそらされ、赤い瞳はゆらゆらと揺れている。先ほどまでナイフを自分の肩に刺してまで婚約を止めようとした勇敢な人物と、同じ人とは思いほどにどこか落ち着きのなく弱弱しい姿だった。
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鎖月零(プロフ) - Flower*さん» flower!ありがとうございます!!短編の夢主は同じ夢主で書くのが普通だということを今の今まで知らなくて……全員バラバラにしてしまいました(笑)私も短編の方が書きやすくて軽くかけるので楽しかったです!続編頑張ります! (2018年2月26日 18時) (レス) id: e5c976073b (このIDを非表示/違反報告)
Flower*(プロフ) - 1完結(?)おめでとうございます!甘々で読んでてドキドキしてしまいました(*ノωノ) それぞれのお話の夢主ちゃんたちも個性豊かで面白し、何より短編なので読みやすいです。やっぱり零すごい……。続編の方も首を長くして待ってます! (2018年2月24日 0時) (レス) id: 4d95f4e8a2 (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» めっちゃ楽しみにしてます!!! (2018年2月18日 18時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - 黛パフェさん» うそぉ……本当に恥ずかしいです(笑)規制かかる系の甘々はあまり得意分野ではないのですが、楽しんでいただけると幸いです……!甘くなるように頑張ります (2018年2月18日 18時) (レス) id: a33d034fdf (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» 今でもたまに見たりしますよ!黄瀬くんの好きですー!規制とかあまり気にしないタイプなので別のアカウントで見に行きますねー! (2018年2月18日 1時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
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