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6月某日。
連日の雨模様から今日もまた雨天となるかと思われたが、実際は白く薄い雲から陽の光が燦々と差し込んでいる。
「いやー、晴れたなぁ」
「そうですね」
「ワ……。おはよう黒子くん」
「おはようございます」
文化祭開始時刻前、図書委員会のブースとなる教室の窓から青い空を眺め1人そう呟いたつもりだったが、どうやら1人ではなかった様だ。澄んだ水色の瞳と視線を合わせながら、ふうと息を吐いた。
「毎回わざとやってる?」
「いえ、毎回至って普通に声を掛けて驚かれてるだけです」
真顔で、でも「失礼な」と不貞腐れるような顔でピシャリと返す黒子くんに「そっか……」と小さな声で言った。仲良くなって分かったが、黒子くんは意外と感情豊かで若干それが顔に出るタイプだ。
漫画でも意外と毒吐く感じが好きだったな〜と少し懐古に耽っていると、文化祭の開始時刻である10時を知らせるチャイムがスピーカーから流れて来た。
「始まりましたね」
「ね。でもすぐには人来なそうだけど」
机を3つほど並べただけの簡易レジから離れ、暇つぶしに教室内に並べられた古本を眺める。
「あ、これ昔読んだことある」
思わず手に取って、簡易レジの内側に座っている黒子くんにその本の表紙を見せた。すると彼は少し不思議そうな顔で言う。
「それこの前日本語版刊行された本じゃなかったでしたっけ」
「……私つい最近のことも昔って言うイタい感じの人なんだよね」
私にとっては大昔の前世の学生時代に読んだ本も、この世界のこの年代ではまだ刊行されてないなんて事はザラにある。その為今の様にボロを出し、今の様に事実とは異なる恥ずかしい自己申告もしなくてはならない羽目になる事も少なくはない。
そんな私のボロのせいで、黒子くんに「そんな……イタくはないですよ」と若干困り顔でフォローをさせてしまう状況もとても申し訳ない。
「僕まだそれ読んだ事ないです。どんなお話なんですか?」
「なんか、臓器提供の為のクローン人間を育てる施設的な場所がある世界の話……」
「へえ……テーマが重いですね」
記憶に鮮明に残っている本がこんな重い話ばっかりなので、変な空気を変えようとしてくれた黒子くんをまた困らせてしまっている。申し訳ない。
とりあえず更に変になってしまった空気を変えようと、私はおもむろに質問を切り出した。
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時