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例によって興奮に震える身体を何とか戒め、「あ、じゃあこの紙に記入お願いしまーす……」と先ほど黒子くんに教えてもらったばかりの古本受付の手続きを行う。
用紙とペンを受け取った緑間くんは同意の旨の頷きをすると、カウンターに紙袋と消臭スプレーを置いて紙に必要項目の記入を始めた。
これまで何人か、漫画のキャラクターに出会っては来ているが、やはりこの初めて出会った時の衝撃はいつだって慣れない。自然と脳裏に浮かぶ「握手」「サイン」「ツーショ」なんて俗っぽい単語を持て余しながら、思わず目の前の緑間くんを凝視してしまっていた。
「俺の顔に何か?」
「え?」
「俺の顔に何か付いていますか」
ぶっきらぼうな敬語でそう尋ねてくる緑間くんにしまった〜見過ぎた〜! と内心で慌てながら、「左利きなんだーって思って……」と苦し紛れで返す。
「はあ」と曖昧に相槌を打つ緑間くんに少しホッとしつつも、流石に初対面で学年もわからない人間に「なのだよ」口調では返さないんだな、なんて頭の片隅で思う。
「中身拝見しますね〜……」
用紙に記入中の緑間くんにそう断りを入れながら、紙袋の中身を確認すると中には中学生にしては小難しい文学作品が多く点在していた。
カフカの変身だ〜高校生の時読んだな〜超憂鬱になったからすぐブックオフで売ったな〜、と何となく感傷に浸りながら一冊ずつ見ていると、文庫本の中に目がチカチカする様な色の表紙の本が混ざっているのが見えた。
『〜おは朝専属占い師が贈る〜 蟹座のアナタへのメッセージ 2004年版』とやけに艶かしいフォントで書かれたその表紙を見て、そういえばこの人占い信者なんだっけ、と彼の設定を思い出す。紙袋の中には2002年から去年のものまで入っている。
消臭スプレーもそういうことか。てかいくら古本と言えども、過去の運勢が書かれた占い本とか誰が買うんだ。
まあ出品された本の吟味は委員の仕事じゃないし、と思いながらも、見なかったことにしようと紙袋の奥の方へしまいこんだ。
「終わりました」
単調なトーンの緑間くんから用紙を受け取り、必要記入欄を確認する。中学生にしては随分達筆な字に感心しながら、記入に漏れがない事を確認して最後に黒子くんから「最後にちゃんと言ってくださいね」と念押しされた項目を読み上げる。
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時