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「じゃあ僕、返却本溜まってきてるので戻してきますね。その間カウンターよろしくお願いします」
「はーい」
返却本を入れるカートをカラカラと押しながら本棚の海へと潜っていく黒子くんの背中に軽く手を振り、改めて椅子に座り直す。
試験前は多かった図書室の利用者も、試験が終わった直後のこの週だと人の入りはだいぶまばらになっている。この前までは満員だった図書室奥の自習コーナーも、今は受験を控えた3年生が数人いる程度だ。
黒子くん戻ってくるまで暇だなぁ、と大きく伸びをして、鞄の中からケータイを取り出す。一応黒子くんを見習って鞄の中に入れてみた文庫本を見て見ぬふりをして、ケータイを開き見れば高尾くんからメールが来ていた。
そういえば試験終わったら会おうって約束だったっけ、と思い返しながら返信を打ち始めた時、不意に自分に大きな影が差したのを感じた。
人の入りも少ないからか、カウンターでの業務も今日は少ない。何だか久しぶりに人来た感じがするな、なんて思いながら返信を打ち途中のケータイを閉じる。
「はい。貸出ですか、返却です……か……」
いつもの手順通りに、そう言いながら顔を上げた瞬間、私の目は大きく見開かれることになる。
「いえ。古本市の出品用の本を持って来たのですが」
単調で低い声でそう言う声の主に私は3つ驚いたことがあった。
一つはそのカウンター越しに見えるその体躯。座っている状態で応対しようとすると首を痛いほどに上げる必要があるほどに、恵まれた身長にまずは驚いた。
そして二つ目は、その声の主は大きな紙袋を2つもぶら下げてここへやってきていること。粗方、家にあった大量の古本をここで在庫処分しようなんて算段だろう。
そして最後に、その声の主の事を私は知っていた事。
黒縁の眼鏡の奥の瞳は少し吊り気味で、見上げる状態でも睫毛の長さが窺える。唇はムッと結ばれているがとても形が良い。紙袋を持っていない左手は、なぜか消臭スプレーを大切そうに握っている。何よりその特徴的な緑色のさらりとした頭髪。
気持ちばかり顔は幼いけど間違いない、本物だ。
み、緑間真太郎だ。
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牛タン(プロフ) - アンパンさん» コメントをいただきありがとうございます。そう言っていただき光栄です。度々話のキリが悪い更新の仕方ですが、温かく見守っていただけますと幸いです🙇 (3月1日 23時) (レス) id: 68be7e4af6 (このIDを非表示/違反報告)
アンパン - めっちゃ文章が好きです!!これからも更新楽しみに待ってます (3月1日 15時) (レス) @page20 id: 2d65495c60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:牛タン | 作成日時:2024年2月27日 9時