叡智の門は開かれない_2 (ページ28)

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＊ページ28

「いったい何を手に入れたというの」
「ええそうね、例えば――」
　そっと彼女は目を閉じる。
例えば病。生まれたときと共にあった。例えば、悲しみ。私はトム・ソーヤのように冒険はできない。例えば、焦燥。悲嘆。嫉妬。妹が生まれて以来、親はだんだん彼女の方を見なくなった。どんな面白い物語りをしようと、どれだけ正確に沢山覚えようと、彼女の言葉に耳を貸さなくなった。恐怖。罪悪感。連合の人々は本達のために何度もあの鉛玉の雨に立ち向かい続けていたと知った。絶望。他でもない、彼女をこの世界に送りだした親に銃口を向けられている。おとぎ話のように、都合よく王子様はこない。そしていまこの時も、文字と本を巡って人々が命を奪い合っている。
「何もないでしょう。今のあなたの中には」
「確かにそうかもしれないわ。でも、それは決して悲しいことじゃなくって」
　眠り姫が百年ぶりに目を覚ましたときのように、彼女は目を開く。これまでの多くの出会いに、記憶に口づけて。
「もう災いは出尽くした、ということだから。そして、いま私の内に在るのは。これから、世界の人々にあまねく行き渡るのは――」
　引き金が引かれた。
「希望よ」
　かくして物語を内に閉じ込めた少女は死んだ。
最後に一つ。「希望」を飛び出させて。

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