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「ちょうどよかった」
正面、上から硬そうな声が降ってくる。
「連合の人間ですよね？ 避難道を案内してください、最終二名が発ちます。これで撤退は完了です」
してください、という割には居丈高な雰囲気の声だった。その声にぴったりな顔つきをした青年は、その姿に似つかわしくなく少女を背負っていた。おそらく連合の人間に頼りたくないのだろう。元昇華隊員が参加している場所では、いくらかそのような事例が起きていると日芽は噂ながらに聞いていた。とはいえそれでも、最後にきちんと「頼る」という選択肢を取った彼にはどことなく好感を抱いていた。
しかし、それと同時に疑念も。
「最後？」
「そうです。撤退開始からもう十分な時間は経過したでしょう。別に不自然などではありません。早く。時間がない。もう政府軍の侵入は始まっています」
「言われんでも理解してますそんなこと。本当に逃げ遅れた人はいない？ 連合、一般市民、元昇華隊員問わず。協会は人間自体は使い捨てにするつもりやないんじゃけ、勝手なことされたら困るんですが」
よぎった嫌な予感で日芽の語気が少し荒くなる。杞憂であればいい、という願望と同時に杞憂なわけがない、という願望など容易に打ち消せる確信があった。最後に撤退する奴が彼以外なわけがない。
「――一名、残留を選びました。彼を待つ必要はありません、俺がそのように命令を受けました」
「撤退はもっと上からの命令じゃボケが、昇華隊員の指揮系統はそんなグズグズなん？ 引きずってでも撤退させんか」
「あいにく昇華隊は連合よりも現場の指揮官が優秀でして。上の粗雑な命令よりこちらの方が見通せることもあるでしょう」
先に目に見えて苛立ったのは青年の声だった。そも、彼は連合に好感を抱いていないしこの期に及んで円滑にことを進めない彼女に焦れ、日々たまった鬱憤に火がついたのだろう。
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