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四、三……
――少し、敵の動きが早まった。今。今だろうか。たった一度、成功しなければ終わり。どうだろう、カクレギに意見を仰いでみるべきだろうか？ ううん、駄目だ。これは私にしか分からない。電気のことを、身を以って知っている私が。
今、と彼女はカクレギの背を叩いた。アサヒの想定とは寸分たがわぬスピードで、彼女は敵の前に躍り出た。構え、と隊員は言う。拾遺機達は、彼女に向けて一斉に銃口を向ける。彼女の体は――。
しかし、人の、機械の体が動く前に。思考をする前に。すでに電気は届けられているのだ。
ヤシマアサヒの能力は電気を操る能力。ココノセカクレギの能力は、匂いによって幻覚を見せる能力。カクレギの能力使用と連鎖するようにアサヒも能力を使用し、匂いを機械に向けて電気信号へと変化させ、彼らの知能へと届けた。香りに関する語彙はもともと少ない。甘い。爽やか。他の語彙との類似性の比較によって表現できるだけのものだ。だから、言葉を信号に変化させようとするより、よっぽど簡単だった。それは、違和感なく彼らの知能へと届けられた。――もちろん、簡単、といっても容易なことではないのは言うまでもない、が。
ふ、と一度、考え込むように機械たちの動きが止まった。そして、即座に我に帰ったように彼らは動いた。破壊。粉砕。
ただし、その攻撃の全ては同胞であり兄弟の機械たちへ。
「やった、やったー！ 上手くいったの！」
安全地帯まで駆け抜けたカクレギが飛び跳ね、アサヒへと抱き着いた。彼女の胸にささった通信機からは、同様の事態が各地で起こっていることが告げられる。一個の経験がすべての個体の学習になり、全ての個体の学習が一個の個体の実力となるのだ。一個の混乱は、全ての大混乱となった。ぬくもりと、音の震えを聞いて、ようやく上手くいったのだ、とアサヒも実感を覚える。
怖い。痛い。
すべては生きているからこそ感じられるものである。確かにそれは電気信号でしかないかもしれない。こんな時になるまで初めて自分の意思で戦えなかった自分と、今無残にも壊しあっている彼らと、どんな違いがあるのだろう。
変えたい。戦いたい。戦わなければならない。
そう感じたのは他でもない私自身だ。ヤシマアサヒという一人の人間だ。何の違いがなくても、「私」という存在がここにあることは変わりがない。
「――ええ、やりました！」
彼女は初めて、自分の意思で同胞と喜びを分かち合った。
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