89.あなたは私の前から消えてはくれな ページ7
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カズが私の目の前から、いなくなった。
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『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
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せっかく教えてもらった電話番号も使いものにならない。LINEは送っても既読にならない。
私の部屋の上にある、カズの部屋もいつの間にかつけられていた合鍵を使って入ってみてもそこはもぬけの殻。
羽柴さんに連絡ーーーー…と思ってみても、羽柴さんの電話番号を教えてもらっていないことに気づく。
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行きそうな場所を探しても見当たらない。
メールを送っても返ってくる。
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毎日一緒にいたはずのカズは
途端に、忽然と私の目の前から消えてしまった。
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それでも、「普通」の人が急に目の前からいなくなるのと「カズ」が急に目の前からいなくなるのとじゃ圧倒的な違いが一つある。
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ヒナタ「見ましたかーーーっ！？朝のWS！ニノ新しいビールのCM！するんですって！」
「お、おうヒナちゃんおはよう…」
ヒナタ「めちゃくちゃ可愛くないですか！？あー、もうすぐですね！ドーム！」
「かわいい、かわいい」
ヒナタ「黄色のスカート買っときましたからね。お揃いにしましょうね！」
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カズは「完全」には私の前からいなくなってくれない。
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「………どこにいんのよ」
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ミンテンドウに向かう道中。昼間。
ふと大きな看板が目に入って。それは朝、ヒナちゃんが興奮してたカズが起用されたビールのもの。
ニッコリと微笑んでいるカズは、無機質でそして私が知ってるカズじゃない。
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ーーーー…多分、こうなんだろうなと思いながら電車に乗り込む。
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多分、カズと付き合って別れたとしても私の目の前からカズは完璧には消えてくれない。
テレビをつけたらバラエティ、ドラマ、CM、音楽番組。
雑誌を開いたら表紙やら、連載やら。
街を歩けば宣伝広告。
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忘れたくても、忘れられるわけがない。
忘れさせてくれない。だっているんだもの。
生活をしていると、いやでも目に、耳に入ってくるんだもの。
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「……かず」
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それでも。新しい仕事をしたと言うことは彼は元気にやっている。
生きている。それだけが私の不安を少しだけ削いでくれる。
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90.他人の不幸はなんとやら→←88.別れはそう、突然にやってくるものであり、傷は唐突につくものである。
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