88.別れはそう、突然にやってくるものであり、傷は唐突につくものである。 ページ6
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夢を見た。
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和也『やっぱりもういいや』
『…え？』
和也『うめちゃんいらない』
『かず』
和也『ばいばーい』
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「……かず…」
和也「呼んだ？」
「うっわぁ！？」
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カズが私を捨てる夢。
そんな悪夢に冷や汗をかいて、ゆっくりと瞼を開けたら目の前にニョキ、と出てくる寝癖がついてる端正な顔。
うわ！？と飛び跳ねたが最後、くくくと喉を鳴らして笑うのは現実のカズ。
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…そうだった。泊まってたんだっけ。
朝から早くなる鼓動をどうにか押さえつけて、「おはよう」と言えばまた「おはよ」と言ってくれる。
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窓の外は快晴。
もうすっかり春だ。
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適当に二人ぶんの朝ごはんを作って、呑気にコーヒーを飲んでるカズをよそ目に私はバタバタする朝と格闘。
トレンチコートを引っ張り出して、髪の毛をひとつにくくる。
オフィス用のメイクを施して、バタバタバタバタ。
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「じゃあ、いってくるから！」
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どうせ出てこないだろ、って決めつけて大きな声をリビングに向けてパンプスを履くと
ガチャリ。
リビングの扉が開いて寝起きのカズが玄関までやってくる。
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「…え」
和也「いってらっしゃい」
「どうしたの、いつもだらーんってダメ人間みたいになってるのに」
和也「んな人をクズみたいに言うなや(笑)。たまたま早く目が覚めたからいってらっしゃいぐらい言ってあげようかなと思って？」
「毎日目が覚めてくれると嬉しいね！」
和也「うっせーわ。ほら早く行けば？電車乗り遅れちゃうんじゃない？」
「あ！そうだった。じゃいってくるね」
和也「はいはい。いってらっしゃい。気をつけてね」
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和也「A」
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ーーーー…なんでだろう。
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玄関の扉が閉まる直前。
僅かな隙間から見えたカズの顔は、あまりにも優しいもので
扉が閉まる瞬間がスローモーションに見えた。
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バタン、と乾いた音がやけに耳の裏に残ってる。
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微かな違和感を覚えながら出勤した春の始まり。
その夜から
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「…カズ」
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カズに連絡がつかなくなった。
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