108話「素直になれよ」 ページ8
「……つ、つよい」
「いやあぁぁ!痛いわ!」
ファージ化した2人の両腕と両の太ももを突いて、完全に動きを止めた。抱き合いながら、私のことを見ている。先程の威勢はどこにもない。
私は2人の目の前に立ち、レイピアを構えた。
2人がさらに震え上がった。
「アルカイド・カタルシス!」
いつもの様に落ち着いて、言葉を紡ぐ。
綺麗な光が2人を包み込んだ。
*
「……夢にしても、いいんだよ」
変身を解いて、後ろを振り返らずに、私はそう言った。
「そもそもそのお菓子は、……夢にだって、出来るんだから。忘れられる。あの戦いの記憶だって」
「……そんな効果があるなんて知りませんでした」
「言ったら忘れないように意識しちゃうでしょう」
私はそこで1度言葉を切った。
ひゅう、と風が、ビルとビルの間を抜ける。
「……本当に興味がなかったり、忘れたいって思ったら忘れることだってできる。……なのに、君たちは5人も揃って誰一人として、忘れてないね」
不思議だ。
何が縁でも、理由でもあるのだろうか。
「じゃあ、忘れればいいのかよ」
「…………え?」
火神くんの声に、振り返った。
5人とも、何故か、怒っていた。
「あーあーあーあー。なんか腹たってきた」
「黒子っちと火神っちの言ってた意味がようやく分かった。これはイライラする」
「忘れて欲しいのか覚えてて欲しいのか結局どっちなんですか」
黒子くんが私の目を真剣に見つめた。
その言葉には、怒りが滲んでいた。
「本当に忘れて欲しかったら、飴を食べさせずに、その場から立ち去ってしまえば良かったんじゃないのか。……そこの4人なら、それで夢だと思うに違いないのだよ」
「どさくさに紛れて俺達もバカ認定かよ真ちゃん」
「実際バカなのだよ。……で、明星」
「……そ、れは。……保険だよ。もし思い出して、言いふらすなんてことあったら困るし、……あだっ!」
「あーだこーだうるせぇなお前」
ごつん、と火神くんの拳が結構な勢いで私の頭頂部に落ちた。
痛さか、それとも別のなにかか、涙が少し出る。
「素直になれよ。……どうして欲しいんだよ」
「どう、って」
「火神くんの、質問に答えてください」
「くろこ、くん」
目の前には黒子くん。
彼はもう一度、私に聞いた。
先程より、柔らかく、子供に話しかけるように。
「……忘れて欲しいんですか?」
「…………ううん」
するり、と言葉が出た。
「ちょっとだけでいいの。……私のこと、忘れないでほしい」
61人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時