106話「腹ごしらえするために食べてません」 ページ6
「はぁ、美味しかった」
「…………火神の女版か？」
「びっくりするくらい食べてましたね」
「むしろこれで済んでよかったくらいだよ」
1時間半くらいたった後。男子高校生に混じってさくさくとご飯を食べ終わる。
今日は少し力も使ったからか、とてもお腹が減っていたようで、私の目の前には空のお皿が５、６枚あった。
会計で出てきた数字を見て、ほかの5人はぎょっとしていたが私は構わず支払う。
そして、全員が支払いを終えて外に出ると、空は星が散らばっていた。
緑間くんの辛辣な言いようと黒子くんの冷静な反応に、私は胸を張って言い返す。
「というか、火神くんも同じだし」
「火神っちと明星っち一緒にするのは違くない？」
「俺をすぐに巻き込むな。美味しく食えたなら何でもいいだろーが」
火神くんの言葉に大きく頷く。食は満足してなんぼである。
そんな話をしながら、駅に向かって帰ろうとしたところだった。
「キャアアアア！」
「うわ、なんだ君は！」
「ああもううるさい！こっちはあとが！ないの！」
ファミレスが少し離れた路地裏。まさにうってつけな所から声がした。
私たちがいたところから反対車線側にあったので、私は車がいなくなった瞬間を狙って道路を走り抜けた。
とす、と肩に重さがかかる。言わずもがな、私の相棒だ。
「コンサート会場からの残党だ」
「出来れば全滅させて欲しかったなぁ」
路地裏の奥の奥。
開けた場所に、男女二人と。
「今度は貴方なの？セーラーアルカイドさん」
セーラーアイアンマウス。
彼女は、あの戦争の、被害者の、1人だ。
「今なら間に合う。……何もしないで」
私は変身ペンを握った。そして、祈る。
それでも彼女は、私のことを一瞬だけ見て、背中を向けた。
「何もしない、ね。……思い出した。あんた、昔アタシにあってる」
「…………」
「星がまだあったとき。あんたは、そう。観測者であり、伝承者。だから、目立つことができない」
ひゅ、と息が詰まる。
シリウスの毛が逆立つ。
「まあそれがわかった所で、アタシにできることはもうない。……アンタにもね」
「ちがう！」
大きな声が出た。しかし彼女の行動は止まらない。ブレスレットを出して、男女二人に光球を飛ばす。
「違うって何？星を見捨て、いつも誰かにくっついていたアンタに、何も言われる筋合いないわよ」
そう言って、彼女は電話ボックスに入る。
くるり、と振り返る。
いつもの意地悪い表情に戻っていた。
「じゃ、あとはよろしく♡」
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作者名：白咲ナナ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時：2023年10月22日 1時
