133話「敗北⇔勝利」 ページ33
青峰君は無事試合に合流でき、私は無事シリウスが作った人形と入れ替わることができた。
でも、そこからは、苦しい時間が始まった。
「ぜーんぶ、知ってますよ♡」
向こうのベンチでは、得意げに微笑む桃井さんがいる。彼女は、こちらの選手の得意な技や誠凛の攻撃のパターンなどを全て分析して、桐皇の選手に事細かに伝えていた。その分析の結果、こちらは手の内を全て知り尽くされており、いつもできるはずの動きがなかなかできない。
そして、黒子くんのミスディレクションの特性すらも向こうに見破られていた。
苦戦を強いられる誠凛。初めは押していたようにも見えたけれど。
くぁ、と欠伸をして入ってきた青峰くんが、全てを変えた。
「……すごい」
私は思わず彼のプレーに釘付けになった。ボールをペンでも扱うように器用に動かして、しなやかな動きでシュートやドリブルをする。
彼がバスケを大好きでたまらないのが伝わるほどの実力がそこにあった。そして、同じくらい積み重ねた努力がプレーに現れていた。
今は、それを弄んでいるけれど。それでもどこか、火神くんの前で、その力を全力で出し切る日をいつかいつかと切望しているように見えた。
火神くんは怪我もあってかあっという間に抜かれていくし、得意のジャンプも今日はキレがない。
青峰くんと一瞬だけ対峙した時、なにか彼が言っていた。火神くんは目を見開いて、悔しそうにしていたけど、内容はわからない。
そして、黒子くんも止めようとするけれど、彼のミスディレクションは切れてしまった。
彼の唯一の武器がなくなってしまえば、青峰くんに適うはずもなく。いや、そもそも今回は、武器があっても彼に勝てる見込みもなかった。
こうして、私が合流してからの約1時間。
誠凛は同点に追いつくことなく、桐皇に大差をつけられて、敗北した。
言い換えると、青峰くん達の桐皇は、危なげなく勝利したということだ。
敗北と勝利が同時に起こる。
今までもあったし、当たり前のことなのに。
整理できないこの溢れるばかりの感情は、敗北の時しか生まれなくて、心底不思議でたまらない。
(人間っつーのは、負の感情が記憶に残りやすいんだってよ)
(……心理学でしょ。知ってるよ)
(ならなんでそんな顔してんだ)
(…………うるさい)
シリウスの言葉にも、返す余裕がなかった。
誠凛は言葉も少なく、会場を後にした。
黒子くんはタオルを頭にかけて、火神くんは無言で、先輩たちはそれぞれ悔しそうな表情をしながら。
134話「こんなに悔しかったっけ」→←132話「今はそれでいいよ」
61人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時