129話「遅れてやってくるのは主役だけじゃない」 ページ29
いよいよ桐皇との試合だ。
コートに入り、ドリンクやタオルを用意しているところだった。
「いやぁ、こんなとこで会うとは思わんかったで、Aちゃん」
「!」
声をかけられて顔を上げると、今吉さんがいた。彼が着るジャージには桐皇と書かれている。
なんという巡り合わせだろうか。
桐皇のプレーはビデオで確認していたけれど、選手の名前までは必要が無いからと覚えていなかった。
「誠凛のマネージャーしとるなんて知らんかったなあ」
「私だって知りませんでした。今吉さんが今日の相手とは」
「ほんまか?ぜんっぜん驚いてないけど」
「それはお互い様でしょう。……では私、やることあるので」
「そうか。ほなまたな」
「はい」
模試の時のような明るさはお互いなかった。周りの突き刺さるような視線のせいでもあったし、試合前だからでもある。今吉さんは他にも聞きたいことがありそうだったが、私の言葉にあっさりと自分のチームの方へ戻った。
「明星知り合いか?」
「Aちゃんって呼んでたな……」
「まさか彼氏!?」
伊月先輩、土田先輩、小金井先輩のひそひそ話が全て聞こえるけれど、知らないふりをする。今ここであれこれと訂正する時間もない。いそいそとドリンクの数を確認していると、リコ先輩がコートが目を離さないまま私の名前を呼んだ。
「Aちゃん」
「はい」
「終わったら聞かせてもらうからね」
「…………ハイ」
有耶無耶に出来ればいいと思ったのに、そう簡単にはいかないらしい。
軽いアップを済ませたらもうすぐ試合開始だ。みんな、リコ先輩のところに集まった。
「向こうはまだエースが到着していないようね」
彼女の言う通り、桐皇はエースである青峰くんがまだ来ていないらしい。
「チャンスがあれば攻めること!強敵だけど、いつも通りやれば勝機は見える!」
全員頷く。
選手は円陣を組んだ。
「誠凛!ファイ!」
「「「オー!」」」
私も掛け声に合わせて、こっそり拳を握った。
(アケホシ)
(…………うそでしょ)
ピーーッと審判の笛がなった所だった。
ほぼ同時に、シリウスの声が頭の中に来た。
それだけで何があったか、なんてすぐわかった。
(しかも青峰がターゲットだ)
(はぁ!?)
顔には出さないけれど、心臓はバクバクだ。
(このままだと試合に出る前にアイツが死ぬ)
(もう!行くしかないじゃん!)
トントントン、とつま先で体育館の床を叩いた。黒子くんが一瞬気づいたのを確認してから、シリウスと入れ替わった。
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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時