122話「釣ったことはあるよ」 ページ22
「明星ってさぁ、本当に残念だよな、色々と」
「降旗くんって最近私に当たり強いよね」
「……遠慮するのが馬鹿らしくなっただけだよ。残念美人さん」
なんだその残念美人は、という言葉すら飲み込む。さっきの、涙目になっていた桃井さんの表情が忘れられない。空気を読んだ黒子くんが連れ出してくれなかったら、一体どうなっていたか。
そのまま誤解も解いておいてくれると助かるのだが。
「……恋って、素晴らしいね」
「ええ?急にらしくないこと言うじゃん」
「ちょっと河原くん福田くん、降旗くんどーなってんのよ」
「いや、今のは明星がおかしいだろ」
「河原に同意。変人美人が恋なんて言ったらおかしいって思うだろ……なんか変人美人って、人だらけだな」
「……あんたら3人グルってわけね」
ため息が出る。私はただ感想を述べただけなのだ。
「全く。女の子が恋するとどうなるか、バスケ男たちにはわからんか」
「そういう明星はどうなんだよ。恋」
「……釣ったことはあるよ。デカいの」
「ふざけんな!鯉の話じゃねーよ!」
ちょっとふざけたら、降旗くんにチョップされた。
「……恋、ねぇ。今はないね」
「じゃあ昔は?」
「ーーーっ、」
福田くんの質問に、息が詰まった。
今の流れなら、ごく普通の質問なのに、私はそれを上手く躱すことができなかった。
「さぁ、どうだったかな」
震えた声で、なんとか答え切る。3人は「このモテ女め」「さすが校内トップ美女」「居すぎて忘れたんだろ」とか色々言って、着替えに行ってしまった。そういえば既にトレーニングは、終わっていた。
「くるしい」
プールの入口に近いところで、1人立ちどまる。
色んな記憶が、びっくり箱が飛び出してくるかのように一気に蘇ってきた。
「恋、なんて、もう、しないんだから」
最近そんなような曲を、昼休みにクラスの女の子集団が聞いていたような気がする。
胸が締め付けられて、とにかく、くるしい。
「せい、くん」
ああ、名前を呼ぶだけでも、体がキシキシと歪な音を立てる。それすらも、罪だと告げていた。
*
「キャアアアア!」
しばらく立ち尽くしていると、女子の悲鳴が聞こえた。声はおそらく桃井さん。そこまで一気に走る。
「…………変態め」
「うひゃひゃ、女のビキニだ。頂くぜ」
案の定、筋肉モリモリで水着だけを身につけた、化け物がそこにいた。
そして、化け物は桃井さんの首を掴んでいた。
「あけ、ほしさん」
黒子くんは、倒れながらも私を見ている。
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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時