103話「視線を集めるあの子」 ページ3
「今日はお疲れ様でした」
惹かれあった星の輝きは、一瞬にして消えてしまったけれど、そこにあったという事実は消えない。
星野光が、海王みちるの楽屋にやってきたのも、必然だった。
みちるが、彼を鏡を通して見つめる。
「お疲れ様。素敵だったわ。貴方たちの歌」
「光栄です。……実は俺、みちるさんのファンなんですよ」
「あら、……ふふっ。とてもクラシックを聞くようには思えないけど」
当たり障りない会話を続ける。2人にとって、確かにコンサートは良いものになった。ファンの声も、心も弾んでいた。
だけど、それ以上のものを、2人は知ってしまっている。
星野光の、表情が真剣なものになる。
「……彼女と、知り合いですね」
「……はぐらかすと、怒るかしら」
「はい。……でも、あんな歌い方するような子じゃない。どうして、ああなったんですか」
ぼそりと呟いた星野の言葉を、みちるは聞き逃さなかった。目を細めて、続きを促す。
「あんな歌い方?」
「Aはずっと歌が好きだった。俺たちに教える時だって、ひとりで歌う時だって。……感情をなくした人形じゃないか。あれじゃあ、どんなに技術があったって……」
「…………」
星野は悲しげに目を閉じた。みちるも痛いほどに彼の気持ちがわかった。視線を逸らして、自分の髪の毛を触る。少しの汗といつもより多めにつけたヘアオイルが、今になって気持ち悪かった。
「……みちるさん」
「言えないわ」
「っ、」
「Aは確かに、一度壊れてる。でも、何があったかなんて、……私から、言えない。あの子のためよ。わかって。意地悪、じゃないの。海王みちるとして、……あの子の大事な友人として」
「……わかりました。自分たちで見つけます」
「…………」
みちるは星野の答えに、否定も肯定もできなかった。星野はぱっと表情を変える。彼を纏う雰囲気はすっかり、スリーライツの星野光だった。
「で、みちるさん。……俺、あなたのこと結構気に入ってるんですよ」
「あら、嬉しいわね。……でもダメよ。ファンのことに怒られちゃうわ」
*
「えっ!Aちゃんが歌ったー!?どういうことですかはるかさん!」
「急だったんだけどな。……テレビでも流れたから、明日確認してみるといいよ」
「う、うん。……Aちゃん、楽しかったかなぁ」
「……そうだね。少なくとも、嫌な顔はしてなかったかな」
「……そっか!早くみちるさんのとこ行こ!」
「おい、お団子……!そっちじゃない!」
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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時