119話「鉛筆で決まる勝負もある」 ページ19
「ここまでありがとう」
広い庭園のある家まで火神くんは律儀にも送ってくれた。あかりがまだついて居てるから、きっとほたるちゃん以外は起きているんだろう。礼を言うと、火神くんは用が済んだとばかりに手をしっしっと追いやるように動かした。
「早く入れ。また明日な」
「うん、また明日」
明日、という言葉に何故かドキドキした。私は小走りで玄関まで行って、鍵を開ける。途端に玄関に光が灯った。
「おかえり」
「ご飯ありますよ」
みちるさんとせつなさんが出迎えてくれる。私はこくりと頷いた。
「ただいま」
*
「で、本当に泊まるのかよ」
「おう。人間湯たんぽってやつだ」
「俺を湯たんぽ扱いすんな!」
城のような家から自分の家に向かうと、白い猫は自分の肩から降りずについてきた。さっき言っていたことは本当だったようだ。
「ま、子離れってやつだ」
「はぁ?なんか言ったか」
シリウスは目を細めて、独りごちた。よく聞こえなかったかシリウスの方を見てきた火神を無視して、もう一度肩に体を預けて目を閉じる。
「無視すんなよな……ハァ、どいつもこいつも」
シリウスは、変に追求してこないところが、酷く居心地が良いなと思いながら、今度こそ深い眠りに落ちていった。
*
ついに、実力テスト当日だ。
あの後は私が国語数学英語を担当、先輩方が手分けして理科科目と社会科目を担当。スパルタな人が多い中、火神くんは猛勉強した。
「ぜってぇ、やるぞ」
「頭回ってないじゃん」
登校してすぐに席に着いた火神くんの意識は朦朧とすらしていた。私は彼の机の上に手のひらサイズのものを2つ落とした。
「はい」
「チョコレート?」
ちょっと発音がいい。火神くんは茶色の甘い粒を見てすぐに、透明な包みを開けて口に含んだ。
「ちょっとにげぇ」
「そのくらいの方が目が覚めるでしょ」
予鈴がなったので席に着く。先生の話を聞き終わったら、試験はもうすぐそこだ。
火神くんの方を見ると、さっきよりちょっとだけ眠気が覚めたようで、私が作ったノートを見直していた。
そして、机の上にあった不思議な鉛筆が目に入る。いつも使っていなかったのに、今日は異様な存在感があった。
「明星さん?」
「あ、ごめん」
前から解答用紙が渡される。私はそれを受け取って、自分の分を抜いて、後ろに渡した。
問題用紙も配られて、いざ、勝負開始である。
そして、鉛筆を転がした火神くんが不思議な高得点を取り、無事インターハイ予選に進めることになった。
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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時