102話「歌って楽しいんだ」 ページ2
スリーライツとみちるさんのステージになったところで、ようやく私は開放された。はるかさんとそっと楽屋まで来て、ソファに沈み込んでしまった。
「大丈夫か?あいつら……Aを利用しやがって」
「…………っ、」
はるかさんはすぐに私の様子を見て、彼らに対して文句をひとつ言うが、私はそれに何一つ反応できない。
バクバクと心臓が高鳴って、呼吸が苦しい。
キラキラと、先程のステージが頭の中を巡る。
それは、初めての経験だった。
とにかく気分が高揚して、興奮して、あの瞬間だけ、私は心から楽しく、歌というものに向き合っていたのだ。
「……飲み物を取ってくるよ。そのあとは、すぐに戻るといい。友達を待たせているんだろう?」
はるかさんは私の表情を見て、ふふ、と笑った。そして頭を撫でてそう告げて、楽屋を出ていく。
私は無言でゆっくりと立ち上がって、ヘアアクセをとる。
ふわりと、髪の毛が揺れる。
ふと、視界に楽屋に置いてある大きな鏡が入る。
近づいて、自分の姿を見る。
黒く染めていたはずの髪の毛が、星のように銀色に、輝いていた。目を閉じて、くるりと鏡に背を向ける。
ドレスをそそくさと脱いで、いつのまにハンガーにかかっていた比較的落ち着いたワンピースを身につけた。
あと数分できっとはるかさんが来る。それまで、いつもの明星Aに、戻らなければ。
だけど、一つだけ、どうか。
ああ、どうか。
彼が、あのステージを、見ていませんように。
*
「いやースリーライツ、大人気だったね」
「じゃないだろーが!!」
ジョイントコンサートはその後、何事もなく終わった。今は、観客への退場案内を待つ。私たちのところは、最後に案内されるだろうから、のんびりと感想を述べただけだった。
スパーンッと入口で配られた無料パンフレットで私の頭は叩かれた。犯人は高尾くん。
「おま、いや、っ、なんだこれ、……のどが、……」
「あれ、高尾くんは経験したことないんですか?」
「ぐ、っ……!?なにも、言えない?」
「黄瀬もかよ」
何かを言おうとしたところで高尾くんは喉を抑えて、苦しそくにしている。黄瀬くんも同様だ。黒子くんと火神くんは既に経験済みだからか、反応は特に変わらず。
「……早くここから出るのだよ」
出たら説明してくれるんだろうな、という緑間くんの視線に、両手で手を振って了承する。
「と言ってもなぁ。見たままの事実だよ?」
「……それがどうかしてるから困ってるんじゃないですか」
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作者名:白咲ナナ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2023年10月22日 1時