異世界に転生したら、勇者になってました。

裏切られた町 ページ5

「は？ 勇者？」
「そうよ！ 絶対そうだわ。前に勇者が来た時とおんなじよ」
「前に勇者が来たってどうゆう意味ですか？ あと、おんなじって……」
俺が女性に問う。いや、その途中で遮って女性はこう言った。
「う〜ん、話してあげてもいいけど、変な同情とかはしないで頂戴ね？」
「あ……、わかりました」
同情……か。きっと悔しい思いでもしたのだろう。あまり口を挟まずに聞こうかな。
「あれは、今からちょうど一年前だったかしら？ この町、あ、この町はアルカーレって名前なの。アルカーレはもともと、鉱山がたくさんあって、結構栄えてたのよ。そんなアルカーレを奪おうとミハバルっていう町から大勢の軍隊が来たのよ。アルカーレは栄えてたといっても少人数の小さな町だったから、大勢の軍隊を抱えているミハバルにはかなうはずがなかったの。それでも人々は毎日毎日エイハルっていう希望の女神に祈ったの。そうしたらある日、異世界から送り込まれた勇者だっていう人が現れたのよ」
「……え。ちょっと待ってください。エイハルってなんですか？」
なんかいやな予感がした。ここに来る前に出会った憎い女神の顔が頭に浮かんだ。
「エイハルっていうのはね、希望の女神っていうより、いろんな世界をつなぐ仕事をしている女神なのよ。希望の女神っていう風に呼んでるのは、アルカーレぐらいだと思うわ」
「は、はは……」
やべえ、笑えねえ。あの女神、そんなに尊い女神だったんだ……。
「続き、話すわね？ その勇者、名前はサイメスっていうんだけど、とにかくすごかった。異世界からこっちの世界に来るときに『戦いの神』っていう称号みたいなものをもらったみたい。異世界から来る人々には必ず『○○の神』っていう称号がもらえるみたいよ」
……ってことは、俺もなんかの神になってるのか？ 全身から力もみなぎってこないし、知恵も浮かばないんだけどな。
「戦いの神なんだから、もちろんとっても強かった。ミハバルに勝てたの。私たちはサイメスを崇めたわ。……でも、それで調子に乗ったのかサイメスは私たちを脅すようになった。『お前たちなんか一瞬で倒せるんだぞ』って」
ゴクリ。思わず唾をのみこむ。
「ある日、そんなサイメスに不満を持った数人の人たちはサイメスのもとへ行って、サイメスにアルカーレから出て行けと言った。……でも、その日不機嫌だったサイメスは怒ってその人たちのことを……」
その女性はそこまで言ってすすり泣き始めた。

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