運命のヒト【さとみ】

＊ ページ32

脱がせた腰辺りに、

紅い跡。

俺には覚えがない。

さとみ「…っ、」
A「ん、？？」

俺の動きが止まったから
不審に思ったのだろう。

Aさんが不思議そうな顔をする。

俺はちらっとAさんの首元を確認する。

さとみ「……」

これはこれは、どうもご丁寧に…

綺麗さっぱり上書きされてるわ。

薄くなっていたキスマークが
再びくっきり跡を残している。

さとみ「……」
A「んっ、」

突然キスを再開した俺に驚くAさん。

俺はAさんに気を使っていられるほど
余裕がなかった。

イライラする。

俺は乱暴にAさんの手に指を絡めて
指輪を抜き取る。

さとみ「…は……ぁ…っ」

悔しくて、涙が出そうになる。

Aさんは俺以外の男にも抱かれてるんだ。

その事実が心をえぐる。

気持ちをかき消すように荒く何度も口付けて。

A「さ、とみくん…？」

俺にめちゃくちゃにされながらも
濡れた目で心配してくるAさん。

この目を他の男にも向けたんだ。

さとみ「く…っそ…ぉ……っ」

指輪を外しただけじゃ
Aさんは俺の女(もの)にならない。

この間まで愛しかった甘い香りが
俺を複雑に歪ませる。

キスマークを見るたび掻きむしりたくなる。


Aさんが眠りについてからベッドに運んでやる。

綺麗な寝顔に優しく布団を被せて
額にキスする。

…俺はAさんだけを愛しているのに、

Aさんは、Aさんは…

さとみ「…っ」

そうか。

結局俺は、都合の良い男になってしまったんだ。

かつてはそれでいいと思っていた都合の良い男に。

こんなに辛いとは思わなかった。

この身体を抱けるだけで幸せだと思ってた。

俺が欲張りになっただけなんだ…

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