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その声を聞いた男は急いでズボンをたくしあげると




「サツ呼んでやがったな!!覚えてろよこのクソアマ!」




と叫び私を突き飛ばすと走って逃げて行った。




「大丈夫…ではありませんね。」



その声の主、諸伏さんは着ていたジャケットを脱ぎ私に羽織らせてくれた。




すぐに誰かに電話して男の逃げた方向や体格、服装などを伝えていた。




「すぐに上原さん…女性警察官が来ます。



それまでは不快でしょうが…傍に居させてください。」




男の逃げた先を見つめる諸伏さん。




「なぜ、こんな時間にこのような場所に?」




私をベンチに座らせて、その隣に立ったままでこう投げかけられた。




「言えません…」




私が話したら、妹は捕まってしまう。



私が話したら、妹には居場所が無くなってしまう。




「私は…あの子の居場所になってあげられなかった、から、」




視界がぼんやり滲むのを感じながらそう言うと諸伏さんはハンカチを差し出しながら



「お気持ちはとてもわかります。たった1人の家族ですから、力になりたいと思うのも至極当然です。」



と言ってくれた。



「しかし…貴女は七瀬桃花の姉である以前に、七瀬Aという1人の人間です。



自分を大切にしない無茶は賢明ではありませんよ。」





はっとした。





初めてだった。桃花の姉でも、双子の片割れでもなく、Aとして自分を大事にしていいんだと言われたのは。




「わた、私…桃花のお姉ちゃんだから、しっかりしなきゃ、支えてあげなきゃ、って」




ぼろぼろ零れる涙もそのままに今までの鬱憤、募った気持ちを吐き出す。



その間諸伏さんはただ黙って隣にいてくれた。



そのうち、パトカーのサイレンが近づいてきて聴取をしてくれた上原さんと諸伏さんが入れ替わるようにして私のそばを離れていった。



「…、ま、って」



後ろ手に組みながら歩く諸伏さんをつい引き止めた。

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作者名:ひねり揚げ | 作成日時:2023年3月14日 10時

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