６.ミノさん？ ページ6
あの日から一週間。
朝起きて出勤して、
コンビニのサンドウィッチをランチにして
夕方は何も食べないか、若しくは
カロリーメイトを摘んだり、
飲むヨーグルトで凌いだ。
そうしていながら、淡々と残りの仕事をこなして
家に帰ってお風呂に入って、
そして、就寝。
繰り返しの日々を当たり前に過ごした。
その中で、あの日の彼のことを
考える事は全くなかったし、忘れていたと言っても過言ではないくらいで。
人間、距離と時間を隔てれば
関係なんて薄れちゃうもんだ。
ましてや、一度きりしか会ったことがないのだから。
今日は火曜日。
慣れた手つきでバーの扉を押した。
「久しぶりね。」
いらっしゃい、とマスターは微笑んだ。
たった一週間弱顔を合わさなかっただけでも
マスターの中では久しぶりになるみたい。
毎週、火曜に来るときはそう声を掛けてくれる。
あ・・・
いつもの私のお決まりの席に座ろうと
視線をそこに流すと、彼はいた。
彼は今日も一人だった。
また待ち合わせしているのかも
分からないけれど
当たり前のように、隣に座っている。
「隣、開けておいたよ。」
と口には出さないけれど
そう言っているのが目で分かる。
隣の席というのは少し気が引けた。
だって、結構近いし。
また、気が落ち着かないのも嫌だし。
そしたら
「特等席、いいの？」
って含み笑い。
ムカつく。
余裕そうな彼が、なんか、いや。
彼は、本当に、なんかいや、がぴったり合う。
なんか、余裕そうで
なんか、読まれてそうで
なんか、謎っぽくて
なんか、いやだ。
遠慮しときます。と返して
一つ開けて座る。
いつもの特等席には、自分の荷物を
どさっと置いてやる。
そんな私に彼はまた可笑しそうに静かに笑った。
「お友達は？」
「今日は一人。」
「へぇ。」
「なんで？」
「一人で来ることあるんだなぁって。」
「俺も一人になりたい時くらいあんの。」
「私がいたら一人じゃないですよ。」
「そうだな、でもAちゃんは違うでしょ。」
・・ん？
私の名前、、、
なんで知ってるの？
あからさまに私が顔を顰めたのが
伝わったみたいで
「マスター。」
「あぁ。貴方は…えっと、ミノ？さん？」
うろ覚えだったから
ちょっと遠慮がちに聞いてみる。
彼がクスッと笑ったから
あ、間違えたのか、ってすぐに分かった。
.
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作者名：べに | 作成日時：2017年2月24日 8時
