・ ページ36
坂道を登って、何個目かのカーブを曲がった先が智の言う「行きたいところ」らしい。海風が頬を擦り、山道に花が咲いて爽やかな香りに包まれている。
自転車じゃ通れなさそうなけもの道を歩く。草をかき分けて、木々の間を縫っていく。
「ほんとにこの道なの？」
「うん、この道で合ってるよ。」
山道を歩く。智の大きな背中を追って、歩く。少しずつ遠くなるその背を追いかけて、歩く。どんなに走っても追いつけないその背中を、追いかけて、追いかけて。
いつからだろう、
あぁいつからだろう。
「着いた。」
けもの道を抜けた先に大きく開けた崖があって、足元には白花が咲く花畑と、遠く先に広がる海と稲が植わった段々畑。いわゆる、絶景だ。
「きれい………」
ぽつりと翔は呟いた。
遠く遠く先に広がる海の青も、段々畑を染める緑も、この白花の白も。ぜんぶ、ぜんぶが翔の心を染め上げた。この景色をいつまでも智と共に居られたら。いつまでも、いつまでも、このまま。
でもきっと孤児院に入ってしまえば、もうふたりだけの時間はなくなってしまう。考えたら翔は胸を掴まれたように呼吸が浅くなったので、その考えは頭の隅に追いやった。
ふと思いついたように智の表情を伺う。黒に近い茶色の髪をかきあげて、海風に当たり微笑む智は確かに綺麗だ。
綺麗だ、
綺麗だ、
綺麗だけど。
智への感情は兄弟の枠を超えても、憧れや美しい智への執着や依存だと思っていた。好きなんて感情は持ってはいけないから。そういつも自分を戒めていた。
この智の表情は綺麗じゃないか。
とても美しく、いつもの智じゃないか。
なのに、この胸のわだかまりは、
この心臓を締め付ける苦しさは、
何だ。
そこで翔は、はたと気づいた。
その事実は耐えきれぬほどの重いものだった。
事実というものはいとも簡単に。
智と翔の関係を、想いを、壊してしまうのだ。
あぁいつからだろう、やっとわかった。
智が笑わなくなったのは。
翔の胸の苦しみは。
智が笑わないすべての理由は。
全てに気づいたとき、瞳に安っぽい涙が流れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 661人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
大翔(プロフ) - kkさん» 主催の者ではなく、練習曲29番を書かせて頂いただけの私ですが、主催の方がまだ作者さんを続けていらっしゃるのか分からないので、かわりにコメント失礼します。コメントしていただいて本当にありがとうございます！ (2020年1月24日 23時) (
レス) id: 7ff2e3a340 (このIDを非表示/違反報告)
kk - 素晴らしい作品！全部すごく良かったです。s受け尊し。 (2020年1月24日 23時) (レス) id: c2bfb0fe32 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵(プロフ) - Sさん» 突然失礼します、向日葵です。こちらはあまり更新しないのですが、青い鳥にて騒いでることが多いのでよろしければ…(@air__ap) (2018年2月1日 16時) (レス) id: 76ade9e498 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 返信ありがとうございます！！ 早速検索かけます！ (2018年1月28日 3時) (レス) id: 539aafff22 (このIDを非表示/違反報告)
あま音(プロフ) - Sさん» 恋色は青い鳥(@Kw_C2a)もやっておりますよ(*^^*) (2018年1月27日 9時) (レス) id: 95b1de6e50 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：｢赤い櫻は冬に咲く｣製作委員会
x他6人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月21日 9時
