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決壊した涙腺は止まることなくぽろぽろと溢れ出た。締め付けるような心の痛みと苦しみが翔の体じゅうを包みこんでいくようで。
無力な自分を、
どうしようもない現実を、
ただひたすらに呪いたくなる。
「翔くん!?どうしたの?」
急に胸を抑えて泣き出した翔の背中を智は慌ててさすってくれた。だいじょうぶ?とか、どこか痛いの?なんて言葉もかけてくれた。もう翔はその優しさが限界だった。
海風に当たる涙は酷く塩の味が濃い。
「智くんが優しいから…」
「え?」
あなたが優しくて、何もかも抱え込んでしまうから。
おれだって家族なのに。
兄弟なのに。
またそうやって独りで抱えるんだ。
独りでぐすぐすと涙を流す翔を心配そうな顔をして智は背中をさすった。翔はそのさすっていた腕をとり、その両手をゆっくりと自身の両手で包み込こんで、ほどよく血管が浮き出たそれぞれの指と指の間を絡ませる。
ひゅっと智が息を飲む音が聴こえた。
「聞いて。」
瞳と瞳を見つめ合わせ、静かに凛とした声で翔は言った。
動揺した表情の智はきょろきょろと瞳を動かしたあと、ゆっくりと頷く。
「智くんはおれのお兄ちゃんだよ。でも、だからといって何でもかんでも独りで抱え込んでいくのは許さない。」
少し驚いたように智が目を見開く。
「泣いたらいいんだよ。ねぇ、智くん。あなたに強がりなんて似合わないよ。」
コツン、と智の額に自分の額を合わせた。
「それでいいんだよ、智くんのそのままで。」
目を瞑ったけれど閉じた瞼からも涙は溢れて止まらなかった。ずっとずっと智はお兄ちゃんだった。智は翔にとって兄だった。尊敬する人だった。
そして、大好きな人だった。
そのとき、強い力で腕を引かれた。体じゅうが智の体温で包まれて、柔らかなおひさまの香りが鼻孔をくすぐる。安心する。いつもいつも変わらない、智の香り。
強く強く抱きすくめられる。離さぬように、何処にも行かないように。
そのうち耳もとで嗚咽が響く。
智が泣いていた。
あの日、両親が灰になった日。
1ミリたりとも凛とした表情を崩さないで泣かなかった智が泣いている。
「さみしい」
智が1言だけその言葉を涙声で呟く。たった13歳の子供がどれだけの寂しさと苦しさを味わってきたのか。それを考えただけで翔は胸がいっぱいだった。
ぎゅっと優しく丁寧に智を抱きしめ囁いた。
「もうだいじょうぶ。」
きっとおれたちは、もうだいじょうぶ。
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大翔(プロフ) - kkさん» 主催の者ではなく、練習曲29番を書かせて頂いただけの私ですが、主催の方がまだ作者さんを続けていらっしゃるのか分からないので、かわりにコメント失礼します。コメントしていただいて本当にありがとうございます! (2020年1月24日 23時) (レス) id: 7ff2e3a340 (このIDを非表示/違反報告)
kk - 素晴らしい作品!全部すごく良かったです。s受け尊し。 (2020年1月24日 23時) (レス) id: c2bfb0fe32 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵(プロフ) - Sさん» 突然失礼します、向日葵です。こちらはあまり更新しないのですが、青い鳥にて騒いでることが多いのでよろしければ…(@air__ap) (2018年2月1日 16時) (レス) id: 76ade9e498 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 返信ありがとうございます!! 早速検索かけます! (2018年1月28日 3時) (レス) id: 539aafff22 (このIDを非表示/違反報告)
あま音(プロフ) - Sさん» 恋色は青い鳥(@Kw_C2a)もやっておりますよ(*^^*) (2018年1月27日 9時) (レス) id: 95b1de6e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:「赤い櫻は冬に咲く」製作委員会 x他6人 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月21日 9時