1 或る置き手紙 ページ3
──拝啓
名前も知らないどこかの世界の君へ
目が覚めたら知らない場所にいて大層驚いたことだろう。それもそのはず。君を此方に連れてきてしまったのは私だ。
私はここでは無いどこか別の世界に強く、強く焦がれてしまった。君が今ここに居るのは、私の異能力のせいだ。本当に済まないとは思っているが、私は好奇心の奴 隷なのだ。
却説、此処からが本題だ。
君を勝手に此処に連れてきてしまったのは私だから、最低限の事はさせてほしい。
まずはこの家。この家にあるもの凡て君が好きにしてくれ給え。預金残高も一生を過ごす上で苦労しない程度には蓄えがある。
次に君の記憶についてだ。
私の異能力は"私自身"と、"無作為に選ばれたこちらの世界の情報を持っている別世界の人間"との世界を交換するという能力だ。
代償として、元いた世界での記憶を喪う。
私も君の世界に降り立ったのならば、此方での記憶は忘れてしまうのだろう。
しかし今私がいる世界は君にとってあまりにも物騒極まりない世界だろう。
だから私は君が持っているであろう"こちら側の世界の情報"だけを留めたまま、君を招待することにした。
君がこの世界で生きていけるように、私からの些細な贈呈品だとでも思ってくれ。
最後に君に異能力を贈ろう。
この世界の情報と併せて上手く使いなさい。
君の"こちらの世界の記憶"と、異能力は使い方次第で身の振り方が大きく変わる代物だ。
注意して使うように。異能力については裏面を詳しく見るといい。
それでは、私はこれで。
長々と書きはしたものの、君の好きなように生きて、鮮やかな人生を紡いでくれ。
─君の人生が少しでも美しいものになりますように
──敬具
追伸:
今は君が知る"原作"の3ヶ月前だ。
この手紙は読み次第、疾く火に焚べるように
『──はぁ??』
傍に置かれた切り抜かれた新聞記事には"武装探偵社の名探偵!またしても難事件を解決に導く!"という見出しが踊っていた。
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作者名:砂上 | 作成日時:2023年3月21日 18時