祠 ページ24
昨日の雨が嘘のように晴れた青空の元、私は飽きもせずに庭園に居た。
私が座る傍には、濃い桃色の花が群生している。
『お嫁さんって…何をしたら良いんだろう…。』
モトキさんには居るだけで良いとは言われたけれど、やはり気になる。
10年前。家族が亡くなった日。
私はもう、亡くなった家族の顔すら覚えていない。
家族が亡くなる前の記憶は、周囲と家族の顔がぼやけたサイレント状態で頭に流れる。
だから、母が父に対して何をしていたか、何を言っていたのか分からない。
『ほんと、どうすりゃいいのよ…』
そんな言葉が思わず口を付いた時、暖かな何かが頬を掠めた。
その先を見ると、雪のように真っ白な兎が居た。
『どうして…』
兎が白くなるのは雪の影響なのではなかったか。
そんな事を考えていると、兎は森の入口に跳んで行き、また此方を見詰める。
『もしかして、着いてこいって言ってる？』
兎は鼻を1度動かした。きっと肯定であろう。
近くに置いてあった血吸を片手に、私は兎に着いて行くことにした。
兎に着いて行って何分経ったか、目的地についたらしい兎は止まり、溶けるように消えた。
『えっ…消えちゃった…。』
兎に案内されたのは、いつか怨霊退治をしたあの祠。
禍々しい気配は無く、ただ存在している。
何の気も無しに、その祠に近付く。
『…うそ。』
何の変哲もない祠。だけど、その祠に刻まれている文字が問題だった。
［神宮寺の巫女、神子よ安らかなれ］
『とうさま？かあさま？』
何も考えられない。
だけど、これはきっと父様と母様の墓だ。
それを裏付けるように、祠の裏にはこう書いてあった。
［神宮寺環奈、神宮寺一仁に捧ぐ］
環奈は母様の名前。一仁は父様の名前。
間違いない、この祠は父様と母様のお墓の代わりに建てられた祠だ。
『父様…母様…そこに、いらしたのですね…！』
まるで幼い子供が甘えるように、私は祠を抱き締めた。
冷たく無機質な石の祠が暖かく感じる。
「A。」
「A！」
懐かしい声に振り向けば、あの日と同じ姿の父様と母様が居て。
でも、触れる事は出来なくて。
触れた箇所から煙のように溶けていく2人。
逢瀬はほんの一瞬だったけど、それで良かった。
10年越しに思い出したのだ。
優しい父様と母様の顔を、眼差しを。
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かれん - 凄く楽しく読めました！ (2018年10月27日 18時) (
レス) id: 9f2d1964ce (このIDを非表示/違反報告)
伊達。(プロフ) - OSO さん» 最後までご閲覧頂きありがとうございました！他の作品の更新にも努めて参りますので、これからもどうかよろしくお願いします。 (2018年9月25日 16時) (レス) id: fe0d9e5760 (このIDを非表示/違反報告)
OSO - 完結おめでとうございます！人外化系は私も好きです！他の作品も頑張ってください！ (2018年9月25日 7時) (レス) id: 04bdd4e69b (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 伊達。さん» ありがとうございますm(_ _)m (2018年9月19日 14時) (レス) id: 5925c39507 (このIDを非表示/違反報告)
伊達。(プロフ) - 透さん» ちん、と読みます。話中の全てにルビを振らせて頂きます。 (2018年9月18日 22時) (レス) id: fe0d9e5760 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：伊達。 | 作成日時：2018年8月23日 13時
