◇ ページ9
変に緊張したAはごくごくと麦茶を飲み干した。
そしてまた流れる沈黙。
「如月はなんの本を頼んだんだ?」
「え?あぁ、好きな作品の続編。確か題名は──」
奈良坂に感謝しながら紙袋を開けた。
Aはソワソワしながら紙袋に手を入れた。秘密の宝箱を開ける時のような高揚感に満ち溢れていた。
取り出した本の表紙は、真っ白な背景に黄色い糸。右上に書かれた題名の隣に並ぶ副題は『黄色い糸』だった。それを見たAは驚きを隠せない表情をしていた。奈良坂が本を見ると「あぁ、」と、納得したように声をこぼす。
「1つ前は赤い糸じゃなかったか?」
「う、うん」
「確か黄色い糸にも意味があったような」
「ほ、ほんと?!」
前のめりになったAを避けるように体を反らせた奈良坂。はっとしたAは「実は」と言って話し始めた。
昔から色んな色の糸が見えていたこと。Aと三輪を、三輪と米屋を、そして米屋と奈良坂を繋いでいた黄色い糸が。一通り話終えると、それを聞いていた奈良坂はくすりと笑った。
「黄色い糸はいい影響を与えあうらしい。今関係はないが、これから何かあるんじゃないか?」
「つまり、それは」
Aは察しが良かった。なんとなく、本当になんとなくだが、奈良坂ということがわかっていたりした。
「ボーダーに入ってみたらどうだ。案外向いてるかもしれないぞ」
やっぱりか。なんて思っていた。
この墓には、ネイバーとの戦闘の末、殺されてしまった隊員が眠っている。もちろん、数年前の大規模侵攻でネイバーに殺されてしまった人も。
Aからすれば、ボーダーは兵士を育成する場所、そして死に急ぐ人たちが行くような場所だと偏見を持っていた。
ボーダーに入隊するのは、生まれ変わったとしてもありえないような事だった。
「意外と楽しいぞ」
「ぼーだー、か……」
「それに、その糸の正体についても何かわかるかもしれない」
「それは、なんとも興味深い……。
───家族と相談してみるよ」
Aがそう言うと、あぁ、と言って微笑んだ。
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時