◇ ページ8
「まだ時間があったらうちで涼んでいきませんか?彼、まだ時間がかかるでしょう。こんなところで待っていては熱中症になってしまいますよ」
「お、まじで?んじゃお言葉に甘えて〜」
──
「ん?陽介じゃないか」
「おっ、なんで奈良坂いんの?あ!もしかしてきさらちゃんの彼氏?」
「違います。あと私は如月だと何回も……」
そうだ、この人は何度言っても聞かない人だった。
Aは諦めて小さなため息をついた。
氷の入った透明なグラスに、水滴の付いた青い蓋のピッチャーで麦茶を注ぐ。2人の前に麦茶を並べて、奈良坂と米屋が並んで座る2人の向かい側に腰を下ろした。
そしてまた、Aは黄色い糸を見た。
(米屋さんと奈良坂にも……)
麦茶の注がれたグラスを持つ、米屋の手の小指と、机の上に置かれた奈良坂の手の小指に結ばれた黄色い細い糸。
「米屋さんと奈良坂は一体どんな関係で……」
「ん?俺たち恋人♡」
「違う阿呆。俺たちはボーダーで同じチームなんだ」
戯言を言う米屋を叩いてAにそういった奈良坂。「へぇ、ぼーだー……」と、ぽつりと呟いて麦茶を飲む。
「奈良坂は、米屋さんはお互いどう思っていますか?」
なんの突拍子もない発言に、2人は顔を見合わせる。奈良坂は「そうだな」と言って、カランとなる氷を眺めながら真剣に考え始めた。
「…陽介は馬鹿だが良い奴だ。常に前向きなところは尊敬できるな」
「へぇ、奈良坂って俺の事そう思ってたのか。オレはなぁ……。うーん、オレも奈良坂のことは結構尊敬してる。頭良いしスナイパーとしての腕もいいし」
「そん、けい……」
俯いて何かを考えるA。
黄色い糸はお互いを尊敬している証なのだろうか。あぁでも、私は三輪さんとまともに会話をしたことがない…。
聞いてみたはいいものの、自分と彼に共通点なんて微塵もない。一体この黄色い糸は何を意味するのだろう。
ぐるぐると思考をめぐらせていれば、ぴりりりりり、とどこからが着信音がした。米屋はポケットからスマホを取りだし、その場で応答する。会話を聞く限り三輪さんだろうか、などと思いながらカゴに盛られたお菓子を摘んだ。
「オレちょっと迎えいってくる!」
そう言って忙しそうに出ていった米屋を見送った2人。同じクラスで、仲のいい2人だが、そばには必ず誰かがいて、2人きりになるということは無かった。
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時