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それだけを聞けば、大抵の人は「運命の赤い糸」だと言うだろう。しかし、彼女と、Aと三輪の小指を結ぶ細い糸は、太陽のような輝かしい黄色だった。Aはこの糸を見る度に、誰かと共有したいほど美しい糸だと言う。
手をかざしたまま、小指に結ばれた黄色い糸を眺めた。
「この糸は一体何を表すものなのでしょうか」
「赤じゃなくて黄色ともなれば尚更わかんねーよな」
米屋の言葉に「ですね」と言って頷いた。
Aが掃除を始めた理由。それは三輪に繋がる黄色い糸が見えたから。
昔から彼女にはたくさんの糸が見えていた。赤色だったり黒だったり、Aと同じ黄色だったり。自分と誰かを繋ぐ糸だけでなく、誰かと誰かを繋いでいる糸も見えていた。
しかし、最近までAと誰かを繋いでいる糸が見えたことは無かった。そして高校に入学して初めての夏休み。Aは初めて、自分と誰かが繋がっている黄色い糸を見たのだった。
Aは手の甲で額を流れる汗を拭って、ちらりと隣に立つ米屋の手を見る。初めて会った時、米屋と三輪にもAと三輪を繋ぐ糸と同じ、黄色い糸が2人を繋いでいた。
(出会いって、春だけのイメージだったんだけどな)
風にそよぐ青々とした葉をつけた木々が揺れる。
「A、客が来てる」
「分かった」
顔を出したAの兄は、それだけを伝えると建物の中へと戻っていった。
近くに竹箒をに立てかけて、玄関へと向かうと、茶髪のマッシュルームヘアの青年がスクールバッグを肩にかけて立っていた。Aに気づいた青年はふわりと微笑んだ。
「奈良坂、何か用?」
「担任に頼まれてな、これを渡しに来た」
奈良坂に渡されたのは、紙袋に入れられた1冊の真新しい本。Aは夏休み前に本を予約しており、夏休み中にでも届くと言われていた。そして届いたのは夏休みも終わりに差し掛かった今日。
夏休み明けてからでも良かったんじゃないか、と思いながら奈良坂に「ありがとう」とお礼を言った。
「時間があるならどう?お茶でも出すよ」
「あぁ、じゃあ頂く」
「……あぁ、そうだ。入って突き当たりの部屋で待っててくれる?」
それだけ言ってもう一度日差しの強い外に出る。木陰で涼みながらスマホをいじっている米屋を見つけ、「米屋さん!」と、名前を呼んだ。
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時