夏と糸/三輪秀次 by syo_ta ページ6
「また来たんですか?もうお盆は過ぎたはずです」
新聞紙に包まれている生花を片手に持った青年に声をかける。彼女の声に気がつくと、青年はきろりと赤い瞳を光らせた。
「俺の勝手だ」
「……そう。雨上がりで泥濘んでいるので気をつけて」
彼女はそれだけを言うと、再び竹箒で掃除を始める。
この寺の住職を父に持つAは、夏休みになると炎天下の空の下、外に出ては意味もなく竹箒で寺と墓地周辺を箒で掃いている。
幼い頃からの習慣などではなく、高校生に上がってからの夏休みからだ。母に聞かれても「何となく」や「暇だから」と言って誰にも教えようとはしない。
ちりんちりん。
どこからか風鈴の涼やかな音が、風に乗って流れてくる。Aはその音に耳を澄ましながらまた意味もなく箒で掃いた。
夏の終わりが近づくと、雑木林からツクツクボウシの鳴き声が聞こえてくる。Aはもう夏と終わりか、なんて考えながら墓地の方へと足を進めた。
「きーさらちゃんっ」
「っ、米屋さん。私は如月です。き、さ、ら、ぎ。
人の名前は最後まで言いましょう。まったくもぅ……」
はぁ、と大きめのため息をついて不服そうな表情のまま「付き添いですか?」と聞くと、前髪をカチューシャで上げている米屋は「おう!」と笑顔でそう答えた。
誰の付き添いかと言うのは、Aと先程すれ違った生花を持った青年基、三輪のことだ。Aは三輪と米屋が同じ学校ということしか知っておらず、随分と仲がいいんだ、としか思っていない。
「まだあれ見えてんの?」
「えぇ、ずっと見えてます」
Aは遠くに見える三輪の背中に、右手の手のひらをかざして見せた。米屋には見えていないが、Aの目には、確かにそれが映っていた。Aの小指から三輪に向けて伸びる、切れてしまいそうな程に細い糸が。
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時