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防衛任務を終え、一旦解散した後。
3人で生身になって、フローリングともコンクリートともつかないトリオン製の床を踏みしめながら歩く。
ボーダー本部の中は程よく空調が効いており、暑すぎず寒すぎず常に快適な気温が保たれている。ある意味では、季節感というものが全くないと言えるだろうか。
「カシオはこれからどうする?」
「はい! そうですね、個人ランク戦に……と、思いましたが。実は、生徒会の方で少々やり残しがありまして」
「そう言えば生徒会長だったかカシオは。中学と高校では勝手が違うかもしれないが、多少なら手伝えることもあるだろう」
「え……よろしいのですか!?」
「防衛任務明けの今日くらい、休養日を設けても罰は当たらないだろう。どこか、適当にバーバーショップかファミレスに入るとして……。王子はどうする?」
「え? あぁ、うん。そうしようかな」
「……今日は、本当にどうした? さっきもだが、今日はやけに気もそぞろというか」
「え〜? あぁでも、そうかもしれないね」
ぼんやりしているなんて自分らしくない、とは頭ではわかっていても、どうしてもいつも通りに働いてくれない。胸の奥底にある何かがなかなか取れてくれない。
ふと視線を巡らせるとこちらを心配しているのか、小動物のような目を向けてくるカシオの姿が目に入る。先輩としてまずかったかな、と少し反省した。
「……で、何の話だっけ?」
「はぁ……どこかファミレスかバーガーショップで、カシオ生徒会長の仕事を手伝うんだが……王子は来るのか?」
「おお、面白そう。ぼく別に生徒会関連にはいないけど」
それに、気分転換でもすればこのモヤモヤも晴れるかも。
そんな私欲も含みながら、なるべくいつも通りの軽快な返事を返してみる。
クラウチはまだ何か言いたげだったが、カシオは素直に「よろしくお願いします!」と大きな返事を返してきた。
そんな他愛もない話に花を咲かせながら、いつも通り支部から外に抜けるゲートに差し掛かる。
トリガーで鍵を承認して、ゆっくりと開くゲートの奥から。
漂う空気の、温度が。
本当だったら不快で、逃れたくて、ない方が絶対にいいはずの……どうしようもない暑さが、今だけは。
「……ねぇ、2人とも」
話しかけたはいいけれど、返事はあえて聞かずにくるりと振り返って。
そして、笑って見せる。
ねぇ、高い空より、蝉の声より、何よりも今この瞬間が。
「すっごく、『夏』って感じがするね」
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時