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Aの言葉に、全員が一瞬で静かになる。
来週には遠征が控えているのだ。
風間も、太刀川も、迅も、Aも、全員行く。近界へ。
そこで、近界で死んだらそこまでだ。
来年の夏なんて来ない、自分の人生の、永遠の夏の終わりになる。
だからこそ、来年夏を迎えるのはこの中の一人かもしれない、二人の可能性も、三人の可能性も、誰もいない可能性だってあるのだ。
「おい、迅」
『何?太刀川さん』
「来年の夏、この中の何人残ってる?」
「……分からないよ、未来はいつでも不確定だからね」
「相変わらず曖昧だな、おまえは」
風間が呆れた表情で迅を見る。
『まあでもさ、………きっと誰も死なないと思うよ』
Aが本当に思ってるのか思っていないのか分からない声音と表情で呟く。
「まあ少なくとも俺は死なないからな大丈夫だな」
太刀川がドヤ顔もせず、さも当たり前のように言い放つ。
『太刀川さん、死亡フラグだよそれ』
「ふざけるな、俺も死なない」
「うっわ風間さんそこで張り合う?」
『とりあえず迅もフラグ立てとく?』
「いや、丁重にお断りしとくよ〜」
Aはまあそうだよね、と笑う。
「この遠征で死んだら最大の駄菓子屋のおばあちゃん不孝だなあ」
『駄菓子屋のおばあちゃん不孝ねえ、まあ確かにそうだわ』
駄菓子屋の経営が上手くいかなくなった理由は、多分警戒区域に近いからなのかもしれない。
いくら三門市の人々が警戒区域からの戦闘音に慣れてきたとはいえ、誰だって恐ろしい化け物の近くには行きたくないのが普通だ。
『ただでさえ迷惑かけちゃってるからねえ』
「まあせめておばあちゃんが平和に暮らせるために守らないとってことだろ」
「それを城戸派筆頭の太刀川さんが言う?」
「城戸派が市民を守ると言ってはいけないのか、迅」
『迅、そういう事じゃなくて気持ちでしょ』
「はいすみません」
相変わらず、怖いくらいにいつも通りだ。
次の夏、誰が残っていて誰が夏を迎えられてないかは分からない。
それでも、今年の夏は確かにこれで終わるのだと、まだまだ暑い日差しの中、全員が考えた。
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時