◇ ページ18
Aはもう裸足になって袴が海水で濡れるのを気にせずに波と遊んでいる。
「夕方になると水も冷えな」
「袴、濡れてる」
「いーんだよ別に。もう稽古の時間終わったし。慶も入れば?」
それに倣って俺も靴を脱いで海に足を突っ込んだ。
「さっき言ってた母親ってどういう意味?」
「んあ?」
「言ってただろ、海は母親だって」
「あーね。ま、頭がくそ痛くなるような話なんだけど、それでも聞きてえ?」
首を横に振る。Aは断られたのに気を悪くせず、楽しそうに笑った。
「慶にはまだはやかったな」
「またすぐそうやってガキ扱いする」
「俺と比べたらまだガキだよ」
「4歳しか変わんねえのに」
「4歳も違うんだよバカ」
たかが4歳、されど4歳。
俺が中学校を卒業する頃にはAは大学生で、こっちが高校を卒業したら、もうとっくに酒を呑める年齢を迎えている。
いつまでも追いつけない。Aはずっと俺の先を走る。
「お子ちゃまな慶くんに1つ教えてやろう」
「なに」
「海が青い理由」
Aのあっちこっちに跳ねた黒髪が風のせいでさらにぼさぼさになる。
「太陽の光の色って7種類くらいあんの。めんどくせえから省くけど。その中に青色があるんだけどさ」
海の水が青色以外の光を全部吸収するらしい。そして海の中にいる物質が青色とぶつかって青色が散らばる。それが海の青さの理由だとAは言う。
さっぱりわからない。
「ならなんで、沖縄とかの海は青くないんだよ」
「沖縄の海は本州の海より植物プランクトンとかの量が少ないんだよ」
「へー?」
「俺たちが酸素吸って、二酸化炭素を出すだろ。それとは逆でプランクトンは二酸化炭素を吸って酸素を出す。そのときに赤と青の光を吸って、緑の光とかが反射すんの」
理科の授業で習った気がする。たしか、コウゴウセイってやつだ。
「だから、プランクトンが多いと緑っぽい海になんだ」
「ふーん。Aはなんでも知ってるんだな」
「慶よりまともにおべんきょーしてるんでな」
Aはどんどん深間に向かっていた。もう腰あたりまで海に浸かっている。
なあ、それ溺れるって。あんたおよげないくせに、
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作者名:常盤千歳 x他6人 | 作成日時:2020年8月25日 10時